<日本語訳> 監督分析:アルビレックス新潟 アルベルト プッチ by Carl Elsik

アルビレックスコラム

 

今回はtotalfootballanalysis.comにてブンデスリーガ、UEFAチャンピオンズリーグ等の戦術分析を執筆している 氏によるアルビレックス新潟・アルベルト プッチ監督の戦術分析をご紹介。ご本人から許可を頂き、日本語訳でお届けします。

 

原文はこちらから↓

 

目次

はじめに

バルセロナの有名なラ・マシアの元テクニカルダイレクターとして、アルベルト プッチはリキ プッチやアンス ファティのようなタレントの育成に関わってきた。彼はMLS・ニューヨークシティFCでドメネク トレントのアシスタントを務めるなどバルセロナの外にフットボールの仕事を求めたが、それ以前の2010~2014年の間はカタルーニャのアカデミーダイレクターであった。プッチはJ2リーグで戦うアルビレックス新潟に加わり、チームを指揮することとなった。新潟の地で、彼はFCバルセロナような、あるいはバイエルン・ミュンヘンのようなポジショナルプレーを駆使し、チームを導いている。

今回の戦術分析ではアルビレックス新潟でプッチが用いている戦術について考察した。分析を通してビルドアップを通したチームとしての優位性の追求、ミドルサードでの前進、ディフェンスやプレスの手法など ”アルベルト プッチ流” ポジショナルプレー哲学を見ていく。

 

 

ビルドアップにおける優位性

(訳者注)原文のこの章では本来新潟の選手名であるところが愛媛の選手名になっている箇所があります。その箇所についてはカッコ内に正しい選手名を記しています。

ビルドアップにおけるプッチの主な目標の1つとして、ボールを前進させるために数的優位を形成することが挙げられる。これにより、アルビレックス新潟はいかなる時でも1人以上の数的優位を得ることができ、プッチはその状況を打開できるようになることを選手たちに求めている。最初の例は愛媛FCとの試合から。GK岡本 昌弘 (小島 亨介) がミドルサードにいる味方に加わり、数的優位の形成を手助けしている。

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岡本 (小島) は相手の2FWのラインに対して余剰プレイヤーになることでCBをサポートしている。彼は積極的に前に出ることで、相手FWに対して誰にどのタイミングでプレスをかけるべきかという判断を迫っている。この場面では岡本 (小島) はプレスを受けず、2FWは岡本 (小島) がCBにパスを出すまでプレッシャーをかけずに待っていた。それによって、西岡 大輝 (舞行蹴ジェームズ) は相手2人の間、ライン上で待つ味方にタテパスを届けることができた。

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このビルドアップではポジショニングも非常に重要である。岡本 (小島) がCBにパスした時、2FWがプレッシャーをかけに行き、1人はボール保持者に、もう1人はCHのケアに回った。ボールを持つCBはタテパスを狙ったが、このパスはボールを前進させるためというよりも、相手を動かすためのパスである。これは3人目の動きの一手目であり、狙い通りにディフェンダーはそれに応じて動いた。2人のディフェンダーはボールへと寄せたもののMF(長沼 洋一 (本間 至恩) )はレイオフでCHに落とし、そして相手が動いてできたスペースへタイミングよく走り込んだ。この3人目の動きはプッチのチームにおいてピッチ上どの場所でも一貫して使われている。

 

京都サンガF.C.に対しては、アルビレックス新潟はゴールキックでもダイヤモンド型の構造を採用しており、ここでも同様の原則の下プレーしている。GK (小島亨介) はゴールキックをCHへの壁パスからスタートし、ややプレッシャーを受けながらボールを再び受け、下のような状況に至った。

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小島は自信を持ったファーストタッチでプレスをかけてきたFWをいなし、パスを出せるだけの余裕を作り出した。京都サンガのFWがCBにプレスをかけると、小島からペナルティボックス頂点にいるゴンサロ ゴンザレスへのパスを通せるだけのスペースが空いた。ビルドアップにおいて知っておくべきもう一つの重要なポイントとして、ゴンザレスのために作られたスペースが挙げられる。アルビレックス新潟の他のミッドフィルダーはディフェンダーを引き連れピッチの高い位置にポジショニングしている。これにより受け手にスペースが生まれるだけでなく、小島がロングボールを蹴らざるを得なくなった際にボールを受けるためのスペースを作り出すことにも繋がる。

 

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上の図はプッチ流ビルドアップで最後に強調しておきたい選手のポジショニングについて。まず、両SBはピッチ中央の4人のMFに幅を与える。アルビレックス新潟は4-2-2-2を基本フォーメーションとし、SBに一貫して幅をもたらすことを求めている。これにより中央のオーバーロードが可能になる。アルビレックス新潟は相手をピン止めし、前進するスペースを作り出すことを目的としてこれら中央のプレイヤーを起用している。

ボールが左から右に動くにしたがって、2CHはサポートと前進の機会を生み出すためにピッチ中央を動き回る。複数の高さを複数の選手で取ることでダイヤモンド型を生み出すことが可能となる。これは菱形の最も遠い頂点にボールがあった場合、選手はプレッシャーを受けながら仕掛けたりターンしたりしなくとも2つのパスコースを確保できることを意味している。

 

 

ミドルサードでの前進 ―スペースにおけるすべて

プッチのチームは、(GKが加わったおかげで)最初の1/3で得られた数的優位をミドルサードへ持ち込むため、フリーマンを確保しながらミドルサードへボールを前進させることを狙っている。ミドルサードでは相手がプレスの意識を弱め、より守備的なプレッシャーラインを形成するため、この作業は困難になっていく。よって、プッチのチームは再びボールを前進させるべくスペースで受け手となるフリーマンを探し続けることになる。プッチのチームは多くの場面でプレッシャーを引き付けることに成功しているものの、フリーマンは必要なタイミングでボール保持者に認知されている必要がある。

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上にプレッシャーを引き付けている一場面を挙げる。これはビルドアップでも目立っていた、非常に似通ったパターンだ。彼らはまず2人のディフェンダーの間にいる味方にボールを預け、相手のプレッシャーを引き付ける。そして最初のパサーにボールを戻し、次なる受け手を探していく。

この場面では、MFは自陣ゴール方向を向いた味方にパスを出している。この選手はターンする代わりに、ボールが来た時よりも空いた(比較的)広いスペースへとパスを戻した。ここからアルビレックス新潟は前進することができた。

 

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アルビレックス新潟は両ウイング周辺の空いたスペースの活用も狙っている。上の画像でも、彼らはピッチ中央にプレッシャーを引き付け、フリーの選手へパスを出すために3人目の動きを駆使している。ボールがMFの元に渡った時、もう一人の選手が彼の手前に走り込んでおり、ここでもターンを必要としない形になっている。最初のパスはディフェンダー全員の視線を集めており、受け手である彼の仕事は味方にボールを落とすだけで十分だった。この動きにおける重要なポイントはピッチ中央のスペースに入り込もうとするロメロフランクのランニングである。これによりサイドのスペースがより広がり、右SBがボールを受けてボックス内へ向けてFWにクロスを送り込むだけの余裕ができた。

 

スペースにいるフリーマンを探すことは、数的・質的優位を狙って大きくサイドチェンジすることにも繋がる。これもまた、チームが一方のサイドでプレッシャーを引き付けることに起因するものである。

(訳者注)次のpic.6は京都サンガの攻撃についての分析です。カッコ内のチーム名に置き換えてお読みください。

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上の画像では、アルビレックス新潟 (京都サンガ) はまず右サイドから左サイドへとボールを動かしている。左サイドには2ラインの間に3人おり、ポジショニングによってディフェンダーの視線を集めている。ボールへのプレッシャーがないため、アルビレックス新潟 (京都サンガ) のDFは数的優位を見て右へと大きくサイドチェンジ。パスを待ち構えていた2人に対して、京都サンガ (アルビレックス新潟) は1人。チャンスを十分に生かすことはできなかったが、賢い斜めのランニングとタイミングを合わせたパスが出せれば、アルビレックス新潟 (京都サンガ) はペナルティエリア内へ侵入できただろう。

 

相手がブロックを深く構えた場合、アルビレックス新潟はDFラインを操ることを狙う。下の画像では、彼らは2-3-5の形になっており、これは相手DFラインと数的同数になることを意味している。これは守備的なチームにとって好ましいことではない。

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望ましくない理由は明確。ディフェンダー全員にそれぞれマークすべき相手がいるからだ。相手がスペースへ動いたり止まったりすれば、その選手についていかねばならない。これこそ上の画像で京都サンガの選手がしていることであり、これにより隣の選手がディフェンスライン背後へ走り込めるだけのスペースが生まれた。

彼らはこれを認知することができず、活用することもできなかった。しかし、彼らがゴールにこれだけ近いエリアでこれだけのスペースを生み出せたという事実にこそ、プッチのポジショナルプレーがうまく機能していることが伺える。

 

 

プレッシングとセットディフェンス

アルビレックス新潟は前線から守備をし、相手にプレスをかけて素早くポゼッションを回復することを狙っている。これは、ピッチの高い位置に選手を置きたいということを意味する。プッチのプレッシングフォーメーションは相手によって変化するが、基本的には2FWがプレッシャーをかけつつ相手の守備的MFを消すようにしている。

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上の画像でアルビレックス新潟は4-4-2プレスを行い、ボール保持者にFWがプレッシング、相方は後ろに下がっている。相手はボールより後ろに多くの人を残しているため、プレスを予測できていない様子。ボランチの役割も重要で、彼らの最初のタスクはピッチ中央のスペースを管理し、ブロック内を通すパスを防ぐこと。パスが出されれば、彼らはプレッシャーをかけに行く。

上の画像では、ボールが動くとともに両SH、CH、左SB(画像外)がパスに集まった。相手はアルビレックス新潟にピッチ中央で優位性を得ることを許していたため、彼らはこの罠を仕掛け、ボールを素早く取り返した。その結果、トランジションでの攻撃を仕掛けられた。

 

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上の画像では、プレッシングにおける彼らの柔軟さが見て取れる。これはよりマンツーマン重視の4-2-2-2プレスで、ペアとなる選手の足元を2色で強調したものだ。これは前の例よりも非常にコンパクトな陣形だが、相手はここでも強いプレッシャーにさらされており、ボールを後ろに戻そうとしている。FWがCBにプレスをかける一方、攻撃的MFはCBのサポート役となろうとしている相手についていく。守備的MFは必要とあらばニアサイドのWBをマークし、もう一人のMFも見ている。カバーシャドウを使ったディフェンスは、特に中央のエリアでは非常に重要だ。これを駆使することで、アルビレックス新潟はスペースを守りつつブロック内を通すパスを防ぐことができるからである。こうして相手が前進するにはまずサイドへビルドダウンしなければいけなくなっている。

 

相手がプレスを掻い潜った時、特に相手が前に出てきた際にはアルビレックス新潟はタクティカルファウルも辞さない。これにより相手の前進を遅らせ、守備的に立て直すことができる。セットディフェンスへと切り替えた際には、彼らのミドルブロックは典型的な4-4-2となり、相手によっては5-3-2に変換する。いずれにせよ、守備陣形は非常にコンパクトで、ちょうどピッチの半分ほぼくらいをカバーしている。

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上の画像では、相手は左サイドから攻撃し、右の攻撃的MFがDFラインまで下がってディフェンスしている。愛媛FCはピッチ中央に3人を置いているため、ここでも数的優位を得ることができている。左SBのポジショニングが彼らの狭く守る狙いを強調している。左SBはほぼ中央に位置している。FWは下がって逆サイドへのパスを防ぐ位置を取り、実質的に愛媛を左サイドに孤立させた。

 

守備構造の中で最後に強調したいのは、彼らの全体としてのスタイルを体現した攻撃的姿勢だ。下の画像では、愛媛FCがポゼッションを循環させていた。相手が左サイドに集まっている中、プッチのチームは5-3-2の陣形を保ちながら前進。

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愛媛は斜めのパスを狙うも、ターゲットには渡らず。アルビレックス新潟のDFラインにいたフリーマンは前に出てプレッシャーをかけ、たやすくボールを奪取した。彼がすぐさまラインブレイクパスをFWへ出すと、チームは素早く攻撃へ向かい、他5人のアタッカー全員を相手陣に送り込んでFWをサポートした。この攻撃的なメンタリティは、ボールを支配しようとする相手にとっては悪夢であろう。

 

 

おわりに

プッチのユース育成の高いレベルでの経験とポジショナルプレー哲学をもってすれば、欧州フットボールに近い将来帰還しても驚きには値しないだろう。彼がどのようなプレーを志向するか、そのメッセージを伝える力は明確だ。もう一つはっきりとわかるのは、彼はスタイル構築に質の高い選手を必要としないということ。J2リーグでこのスタイルを達成しているのがその証拠だ。

 

現在、彼の視線の先にあるのは昇格を勝ち取ることだ。アルビレックス新潟にとっては高い目標で、執筆時点で昇格圏までは11ポイント差、首位とは12ポイント差がついている。プッチにとっては幸運なことに、彼のチームは14試合を残している。

 

 

Head Coach Analysis: Albert Puig at Albirex Niigata
12/11/2020 originally written by Carl Elsik 

訳:あるけん

 

 

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