前回に続いての企画もの、JAPAN ANALYZING FESTIVAL ’26 の記事でございます。

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今回は追加企画、準々決勝を分析しようの回です。 担当はスペイン-ベルギーの一戦。
で、結局取り掛かりが遅くなり、ただいまスペイン-アルゼンチンの決勝戦のメンバー発表を待とうかというところです。
というわけで、今のスペイン代表の強さやベルギーのスペイン対策を振り返りながら、最後に決勝に向けた話に繋げる強引な編成となっています。よかったらそこまで見てやってください。
目次
今のスペイン代表が強い理由
今のスペインの強さは、90分通じてボールと主導権を握り、相手を嬲り続けられることにある。
なぜこれができるかというと、ポゼッションと崩しを両立するために必要なマインドとアクションがチーム全体に浸透しているからだろう。
<チーム全体としての視点>ボールを保持し続けるために必要な意識
・幅と深さを確保し、ボールとともに前進する
・ボールホルダーに対して逃げ場のパスコースを作り、味方を助ける
・ボールロスト直後の即時奪回と、奪えなかった場合の素早い陣形回復を徹底する
<個人~ユニットでの視点>相手を動かして崩すために必要な意識
・パスラインを作る、ラインブレイクする、相手を引き出すなど、オフザボールでのアクションを繰り返し、味方を助けて相手を困らせる
・ユニット(2-4人)単位でプレーイメージを共有し、連動してできるスペースを突く
・相手の対応に合わせ、攻めるエリアやルートを柔軟に変化させる
今のスペインはこれらのマインドをピッチ上の11人全員がフル装備。なおかつ判断が素早く的確で、1つ1つのプレー精度もハイレベルで、おまけに試合の中で狙いどころを変えていける柔軟性も持つという、現代フットボールのお手本のようなチームになっている。
ボールを取り上げない限りどうやっても攻め手を見出してくるため、対戦相手からすればこう守ってこう攻めたら勝てるはず、という型を用意することさえも難しい。「攻め込まれる回数をどうにか減らして、ゴール前は気合いで食い止める、余力でカウンターに出れたら」というパワー解決をするほかなくなってしまう。
しかし守りに入る相手に対して交代策で解決を図れるのが今のラ・ロハ。メリーノがインハー兼セカンドストライカーとしてゴール前突撃したり、フェランがフリーマン役となってコンビネーションアタックを仕掛けたりと、攻め方に変化をつけられる。途中投入組もポジショニングやアクションが的確なため、メンバーが替わっても11人のチームとしての機能を損なうことなく戦える。
個人個人の単体の火力では他のベスト8国にやや見劣りしても、こうして交代を駆使して兵站勝負に持ち込み、最後には寄り切ってしまえる。そんな力強さが今のスペイン代表の凄みだと感じる。

今大会のスペインの概略図
ベルギー戦レビュー
メンバー
スペインはポルトガル戦のスタメンからペドリ→ファビアンの1人のみ。コンディションだったのか、もしくはベルギーのセットプレーなどを気にしてファビアンの身長を重視したか。
一方のベルギーはアメリカ戦から3人変更。負傷で大会離脱のオナナ→ファナーケン、ルケバキオ→トロサール、ティーレマンス→デブライネ。スタメン発表時はティーレマンスだったものの、アップ中の怪我なのかファナーケンがボランチの一角に。この大一番を前にボランチ2人離脱という大きな痛手を負うことになった。
ベルギーの対策:中盤の枚数調整とマンツーマン対応
スペイン代表は相変わらずボール保持をやらせたら世界一。基本的にどの選手もオフザボールで細かくポジショニングを調整してパスコースを作り続けるし、オンザボールでもターンして運んでパスするまでが正確で無駄がない。その判断の的確さと方向転換の淀みのなさは、このトップレベルの選手が集まるW杯の舞台でも別格の印象。
そんないつもの保持をするスペインに対し、ベルギーは4バックをできるだけキープしつつ、攻め込まれ段階に合わせて中盤の枚数を増減させる策で対抗した。
①ハイプレス
GKが持つとまずは4-4-2でスタート。この時トップのデ ケテラーレはラポルト側に立ち、トップ下のデ ブライネはロドリを見る。なので自然とクバルシが空く。
そしてデ ブライネがクバルシに寄せるのを合図にしてCHラスキンがプッシュアップしてロドリを担当。こうして全員がマンツーマンの形になり、あとは根性対応。オルモとオヤルサバルの前2枚もメヘレとンゴイの2CBがついていく。そのためスペインの両WGを見るSB2枚を残してど真ん中が留守になることもあった。
かなり覚悟の決まった対応だったが、突破されたらすぐに引くようにしており、何が何でも奪うというスタンスには見えなかった。これはあくまで自陣で引きこもりっぱなしになりたくない、できるだけ前で戦う時間を増やしたいという、あわよくば相手陣地で奪ってショートカウンターしたいという狙いのようだった。
②ミドルブロック
ボールがピッチ中央まで進んできたら4-4-1-1~4-5-1のような対応。デ ブライネがロドリへのパスコースを切り続ける対応をしつつ、押し込まれた時などタイミングを見て左IHに収まることで4-5のブロックを作った。
また、ミドルブロックの時には最終ラインが自陣ゴールから25~30mの高さをキープ。スペインのCBがロングパスを出しても、ドンピシャのボールでない限りGKかDFで対処できる、それくらいの絶妙の距離感を保った。
③ローブロック
ラスト30mに差し掛かるとローブロックで対応。ヤマルの突破に対しては左のデカイパー&ドクでサンド。内側を動き回るオルモをラスキンとメヘレでなんとか捕まえる。デ ブライネは状況によっては左IHとして下がったが、体力温存のためか毎回厳密に戻るわけではなかった。
移動の多いバエナ-ファビアン-ククレジャを見るベルギーの右サイドも頑張って人を捕まえるスタイル。ククレジャについていくトロサールは最終ラインに吸収されることもままあり、献身的な背番号10という点で堂安に重なるところもあった。
結局のところハイプレスを出せたのは前半15分くらいと飲水後やHT直後の5-10分ぐらい。それにハイプレスくらいでは全く動じないのがスペインで、オルモがラスキンとメヘレの間の絶妙な空間でターンして2枚引きはがしたり、CBが前に出るところをバエナが左から流れて背後を突いたりと、脅威を与えられるポイントをスペインは抑えていた。
むしろスペインは4-5-1ミドルブロックに対して少し手こずった印象。ライン間へのゲートを狭められ、背後へのボールも簡単には繋がらない。そのため15分過ぎからスペインは早く攻め切ろうとするシーンが増加。ハイプレス時にCHのラスキンがロドリまで出てくるのを利用し、CHの背後のスペースをポロとヤマルの右コンビで使って一気に攻めるシーンが何度かあった。しかしベルギーのCBの戻りも早く、フィニッシュまでは繋がらず。
4-5-1で対応できていたベルギーだったが、20分頃からデ ブライネが下がらず4-4-1-1で対処するように変化。これを利用して29分にスペインがこじ開ける。フリーのクバルシにボールが渡った瞬間、左SHのドクはやや内に絞る。これで大外のスペースを得たポロがボールを受けた後、ヤマルとの縦ワンツーで抜け出し、マイナスクロスにオルモ、クルトワが弾いたボールにファビアンが詰めて先制。空きはじめたスペースを利用した見事な崩しだった。
デ ブライネは消耗を減らすために残り気味になっていたのかもしれないが、先制後は再び左IH位置に入るようになっていたので、さすがにまずかったと反省していたのかもしれない。
それでもあれだけ握られた45分を1失点、xG 1.00 (Fotmobより) で終えたわけで、一定の成果はあった。MFが前でフィルターとなりDFがマンツーマン気味に対応する、という組み合わせは、ライン間の選択肢を削りながら背後へのアクションへの対処を可能にしていた。
チームを押し上げるキーマンが繋いだ一撃
勝つためにはマイボールにして前に出たいベルギーだったが、ボール奪取位置がほとんど自陣深い位置になってしまったため、攻めに転じることが難しかった。さらにカウンターに入る一発目のパスがズレたり、カウンタープレスを受けてあっさり蹴り出してしまったりと、余裕のなさが目立っていた。可能性が見えたのは2-3人ならかわしてキープできてしまうドクと、ラポルトに競り勝てていたデ ケテラーレのところ。この2人を軸にして時折押し返すシーンが出始める。
その2人が主役になったのは41分。ドクが強引なキャリーで相手陣地を持ち上がってようやくの攻撃機会を作ると、左からのクロスが抜けた後のパス交換でデブライネが絶妙なダイレクトスルーパス。カスターニュのクロスにデ ケテラーレが頭で流し込んで同点弾。サイドで数的優位を作って突破し、シンプルにCBに競り勝つ。終始劣勢な中で細い可能性を繋いだ攻撃からタイスコアに戻す。
振り返ってみると試合を通じてのビッグチャンスはここと54分ごろにドクがデ ブライネとのワンツーから抜け出してマイナスクロスを入れたシーンぐらい。正直もっとドクとデ ケテラーレの良さを生かしたかったところだが、スペインの攻めは想像以上に体力を削ってきていたということなのだろう。
勝負をかけたメンバー交代の明暗
後半開始からスペインのWGとIHが高い位置をキープし、より背後への狙いを強める。これによりベルギーはハイプレスを出しにくくなったが、逆にスペインの前と後ろが離れたことで、ベルギーの中盤に引っ掛けるシーンも増えた。それでも体力が削られていくのはベルギーの方。
おまけにこの試合ではいつもより早めにスペインが選手交代。55分にファビアンとバエナを下げ、ペドリとフェランを投入。ライン間で受けたりコンビネーションで突破したりが得意な2人を入れることで、ベルギーのマンツーマン対応をポジションチェンジでずらしていこうという狙いに見えた。
対するベルギーは60分に3枚替え。デカイパー→セイス、ファナーケン→ヴィツェル、トロサール→ルカクと疲労していそうなところを手当て。守備で目が効くヴィツェルとパワーのあるルカクの投入で、低めで守った後のカウンターに勝機をかけた。
しかしこれが誤算になる。セイスはヤマルとの1on1で全く引けを取らず、ヴィツェルはCBの周りのスペースをこまめにケアしていたものの、肝心のルカクがラポルトに勝てず。デ ケテラーレに比べてロングボールを全然モノにできず、ことごとくスペインボールに戻ってしまった。その結果スペインのターンが続き、さらにHPが削られていくことに。
加えてクルトワが脚を痛めたのかまさかの途中交代。何とかピッチに立ち続けていたデ ブライネも足を攣ってしまい、85分までで主軸2人を下げざるを得なくなってしまった。
一方そのころスペインは79分にニコを、85分にメリーノを投入。先に追加していた中央のコンビネーションアタックに加え、左サイドからの仕掛け、中央2列目からの飛び出しでどんどん攻撃の色を変えていく。
その結果87分についにこじ開け成功。高い位置まで出てきていたクバルシがフリーで受けて低めのミドル。バウンドボールを掴みきれなかったラメンスがこぼしたところ、抜け目なく突いたのはメリーノだった。
手負いの中抗戦したベルギーと、手を変え人を替えで攻め続けたスペイン。おそらく延長戦に入っても後者が勝者になっただろう。必然の勝利をスペインが手繰り寄せた。
試合結果
2026/07/11 UTC 04:00 K.O. @ Los Angeles Stadium
スペイン 2-1 ベルギー
30’ スペイン 8 ファビアン ルイス
41’ ベルギー 17 シャルル デ ケテラーレ
88’ スペイン 6 ミケル メリーノ
あとがき
この試合でベルギーの用意した4-5-1のミドルブロック、ドクとデ ケテラーレを活かした押し上げ、交代選手でのパワー補充という策はかなり有効だった。失点を最小限に抑え、数少ないチャンスで同点に結び付けるという展開もかなり理想的だった。
惜しむらくは試合前からけが人が相次いで手札が減ったことと、後半に押し上げる時間帯が作れなかったことだろう。限りなく可能性を繋いだ戦いぶりだったが、3枚替えとともに前への勢いを出せるかというところで出せず、ただただ消耗するしかなくなってしまった。博打に負けたという形ではあるが、それでも今持てるすべてをもって対抗したベルギーの戦いぶりは心に来るものがあった。
それでも11人のプレーイメージの共有ぶりと、厚い選手層を活かして兵站の戦いに持ち込むところはさすがのスペイン。最終盤になってウナイ シモが謎飛び出しをしたり、キープすればいいところをなぜか中盤で引っ掛けて逆襲されたりと不思議な時間帯があったが、基本的に相手が困ることをやり続けた見事な90分だった。
決勝戦への展望と期待
さて、せっかくなのでベルギー戦を踏まえた決勝戦の展望的なものを。
この試合でのベルギーのスペイン対策は割と汎用性があるように見えた。
• 4-5-1でのミドルブロックによりスペインお得意のライン間でのレシーブをやらせず、最終ラインが高さ調整とマンツー対応を頑張ることでラインブレイクも抑え込む
• 前線やサイドにボールをキープできる役を置くことで、スペインのカウンタープレスを回避しつつ前進する
• 後半にギア上げ役を投入し、スペインの打ち手に負けないパワーを出す
これらが揃った上で、ワンタッチスルーパス2本で2度のラインブレイクを成功させたデ ブライネのような存在がいれば、勝機は案外見出せるのかもしれない。問題は、そんな都合よく駒の揃ったチームがあるかということである。
その点、今回のアルゼンチンは「ある」と言っていいのではないだろうか。
上背はないがマンツーマンに強みのあるDF陣、労働者の役をこなせる中盤、スーパーサブとしてのラウタロ、そして絶大なるキープ力チャンスクリエイト力得点力を兼ね備えたメッシ。論理とは外れた戦いぶりで勝ち上がってきた彼らがこれを成し遂げても全く不思議ではない。
その上で、その上で個人的な期待を言うと、スペインがこのフットボールで頂点を獲る姿が見たい。
順当でつまらないとか、正解のフットボールすぎてロマンがないとかいう声もある。確かに上から見ていると”正解”の選択肢を全員で選び続けることで結果を引き寄せているように見える。でも偶然のロングボールに賭けたっていい自由なフットボールにおいて、丁寧に”正解”を導き出すことが一番大変で難しい。
ベルギー戦の1点目の場面では、2人でサイド突破を試みる場面でボックス内に4人が侵入していた。ポゼッションに縛られた思考だと(サイドにサポート役が1人留まって選択肢を残しておいた方がいいのに~)とか思ってしまうところ、ここはゴールだ!と飛び込んでしまえるのだ。たしかに結果から見れば”正解”のプレーなんだけど、なんで”正解”を選べたのかは外の人間にはわからない。あくまでポゼッションは手段にして、ここぞの場面で一気にゴールを目指せる。フットボーラーとしての”本能”が垣間見えるこの瞬間に凄みがある。
スペインが勝つことで今のサッカー界のトレンドがまた揺り動くのか、というとそこまでの影響はないと思っている。だってこのフットボールはこの人たちだからできるんだもの。ポゼッションは安定させられるとして、崩しの形をこれだけ多彩に有効に繰り出すなんてのは並大抵のことではできるようにならない。
11人がピッチ上で同じ絵を描くのは本当に難しいことで、その極致をボールを握り続ける理想の下に体現しているのがこのチームの凄いところ。個人がきらめきを見せるのが人のなすアートならば、ユニットで、11人で連動して協働して1つのゴールへの道筋を作り出すのもまたアートだろう。やっぱりこの人たちは凄いなぁと思わせてくれる、そんなプレーぶりをぜひとも期待したい。
