アルベルト・アルビの目指したスタイル | アルビレックス新潟 2020シーズンレビューVol.1

2020シーズン

 

オンザピッチでもオフザピッチでも激動だった2020年のアルビレックス新潟。最終盤に成績が急降下したことでメンタル的に非常に良くない状態でオフシーズンに突入した(本記事に取り掛かる気がなかなか起きなかったのはこのせい(ということにする))が、久々に同じ監督の下で2度目のプレシーズンを迎えることができる(柳下監督以来)わけで、振り返りをしないのはさすがにもったいない。

 

ということで、このシーズンレビューではアルベルト体制1年目の2020シーズンを振り返っていく。お品書きはこちら(予定)。

Vol.1  アルベルト・アルビの目指したスタイル

Vol.2 2020シーズンの歩み

Vol.3 編成・データ振り返り、総括

 

第1回である今回のテーマは「アルベルト・アルビのベース」。まずはアルベルト監督に率いられたチームの戦いのベースを掘り下げていく。このVol.1でベースとなる部分について考察し、それを踏まえてVol.2ではシーズンの中でチームがどう成長、変化していったのかというストーリーを振り返る、そんなイメージで。

 

 

目次

1. アルベルト監督の哲学

以前監督インタビューからコンセプトを考察した記事はこちら。夏時点に書いた軽めの記事なので参考程度に。

アルベルト・アルビのコンセプトを読み解く | あるけんラボ (alkenlab.com)

 

アルベルト監督の哲学はシンプル。「ボールを愛し、ボールと共にプレーする」。ボールを繋ぎながら攻め、奪われたら間髪入れずに奪い返し、ボールも試合も支配する。

われわれはボールをつないで全選手で攻撃するスタイル。 ― 27節 水戸戦


われわれとしては攻撃の際、幅と奥行きを最大限とって、スペースを生かした攻撃を目指している。

ボールを奪われたあと、ただちに奪い返すプレスも、チームの特徴の1つにならないといけない。ブロックを下げて守備をするようなチームではない。奪われたあとはアグレッシブに、前がかりでプレスを掛けて奪い返すのがわれわれのプレー。
― 18節 千葉戦

そして、スタイル実現のために必要なものについて、次のようなコメントも。

われわれが求めるプレーをするためには、パススピード、プレースピードが必要。それがなくなると、普通のチームに成り下がってしまう。 ― 6節 山形戦

良いポジション取りをした上で、奪われてもただちにプレスを掛けて奪い返せば攻撃を続けられるので、それも狙いでした。 ― 15節 福岡戦

 

アルベルト監督の目指すものはいわゆる「ポジショナルプレー」ピッチを広く使いながらボール保持しやすいように的確にポジショニングを変化させていくことで、チーム全体としてボールを前に運ぶこと、それを安定的に行うことを目指す。また、ボールを中心としてバランスよくポジショニングしながら攻撃することで、ボールを失った直後に間延びすることなくシームレスにプレッシングに移行できるような仕組みになっていた。

ポジショナルプレーと一口に言っても、展開を落ち着けたがる静的なポジショナルプレーと動きの多くアグレッシブな動的なポジショナルプレーとがある。前者の代表格はロティ―ナ・セレッソだが、アルベルト監督が志向するのは後者、動的なポジショナルプレーだと考える。例として、DFライン背後を空けるリスクを承知の上でDFラインを上げ、ボールを奪い返しに行く場面は何度も見られたことが挙げられる。間違いなくアグレッシブだ。

 

ボールを握ることへの強いこだわりにはブラウグラナの血が感じられる。ゲームコントロールについて語る際も、ボール保持の局面にフォーカスしがち。

--前半2点取ったあとに、コントロールを失った理由は。

守備の問題で失ったわけではない。攻撃の奥行きを失ったがゆえに、コントロールを失った。われわれのようなプレースタイルを志向する際、パスをつなぐことに喜びを感じ過ぎて足元でもらう傾向が強くなる。まさしくそういうミスを犯してしまった。前半、足元ばかりで受ける選手が多くなってしまって、背後に飛び出す選手が減ってしまった。 ― 11節 山口戦

 

終了間際の15分ほど、ボールを支配する良い形での守備ができた。 ― 27節 水戸戦

ここからはもう少し具体的に、局面ごとにアルベルト・アルビのベースを見ていく。

 

 

2. 局面ごとの狙い

1.攻撃

1-1 ~ミドルサード:ポゼッション&前進

ボールを持った際に無理にスピードを上げてカウンターを仕掛けることはなく、落ち着いてビルドアップ。ピッチを広く使うためにパススピードを上げること、それを高いレベルで維持することを最初のトレーニングから口酸っぱく言い続けていた。

 

ディフェンシブサードではGK+4DFにCHがサポートに加わり、パスを繋いで徐々に押し上げる。このエリアではDFから前線へのグラウンダーパスは少なめ。自陣中央でひっかけられて相手のターンになるのを嫌ったからと考えられる。よって、ハイプレスを受けるとサイドからの回避がメインに。

プレスを受けると無理せず前線のターゲットへロングボールを蹴る場面も見られた。ビルドアップが未熟な序盤は特に多く、割り切りが感じられた。最前線に裏抜け得意なFWを置かなかったこともあって自陣に相手を引き込み擬似カウンター!はせず、あくまでチーム全体での順序良く前進を狙った。

 

ミドルサードまで押し上げると、CHの1人(主に島田)がDFラインに下り、代わりにSBはポジションを上げて3バック化。こうして3-1のひし形を作ることで後方でパスコース確保、ボール保持の中心となった。

このエリアでのボール保持でポイントとなったのはレイオフ。タテパスを受けた選手が後方の味方へ「落とす」ことで、味方が前向きフリーでボールを持てる状況を作り出す。アルベルト・アルビでは主にSHやFWがポスト役を担い、CHが連動して受けることで前向きのまま次のプレーへと向かえる仕組みになっていた。


大外で幅取り役を担ったのは各サイド1人(SB or SH)のみ。プレッシャーの強まるピッチ中央に味方も相手も密集する中でも簡単にボールを失わなかったのは、フリーの味方を作り出せるレイオフを多用したおかげであったと言える。得点チャンスをそれなりに作れていたのも、ミドルサードで前向きフリーの選手からサイドへ展開したり、DFライン背後を狙うパスを供給したりができていたためと考えられる。

これらを成立させるためにも、パスコースを常に複数用意できるような絶え間ないポジショニングが必要不可欠であった。

 

 

1-2 アタッキングサード:フィニッシュ

ファイナルサード、ゴールへ向かう局面でそれほどパターンのようなものはなし。監督としては「ラスト30mは監督ではなく選手の仕事」「チャンスを生み出すことはできるが、ゴールになるかは運次第」が基本スタンスらしい。個々のアイデアを尊重している旨のコメントはちらほら。

--今日の攻撃の狙いは?

攻撃は自由にしていいと言われているので、1トップの長所を生かして、シンプルにクロスを入れる攻撃の形を意識していました。 ― 20節 徳島戦 鄭大世

明確な崩しの形を感じ取れなかった理由としてペナルティエリア内左右のエリア、ニアゾーン(ポケット等呼び名はいろいろ)への侵入が極端に少なかったことが挙げられる。

ニアゾーン含めた相手陣奥深くへ侵入する場合、ゴール手前でDFの視野を左右に大きく揺さぶることができる。こうすることでDFはボールとマークする相手の同一視が難しくなり、攻撃側はゴール前で一瞬でもフリーになりやすくなる。ゴール前で幅を使うことで崩しやすくなるというわけだ。

逆にこのエリアを使わない縛りを入れた場合、DFの視野を揺さぶることができないだけでなく、DFは前向きの対応が多くなるため少しラクになる。

ヴェルディはこのエリアへ人もボールも送り込んで崩しのキーとして狙いまくっているわけだが、アルベルト・アルビにその狙いはほとんど見られず。ロメロ フランクの強引な侵入など属人的なものに限られていた。

相手陣奥深くを使わなかった理由を明言した記事等は見た記憶がない(あれば教えてください)。考えられるのは、ネガティブトランジション(攻→守)の際の人数不足になるのを避けるため。サイド奥深くから上げたクロスが跳ね返され相手ボールになった場合、ボールより相手陣側にクロッサーは取り残されることになる。こうするとプレス要員が減るだけでなく、守備ブロックを形成するのにも時間がかかってしまう。ボールを握り続けたいアルベルト監督からすればこの点がお気に召さないのかもしれない。いつか答え合わせしたい。

 

というわけで、ボールサイドを深く攻め込まないアルベルト・アルビのゴール前侵入は中央突破or大外からアーリー気味クロス。クロスについては、パスを繋いで相手を一方のサイドに寄せ、レイオフを絡めて中盤を経由して逆サイドに展開するという、クロッサーをフリーにする仕組みがあったと思われる。

 

このようにパターン的な崩しの形を持たなかったアルベルト・アルビ。振り返るとアタッカー陣の個性を生かす形でフィニッシュに至る場面が多かったように思う。点が取れる時は取れたものの基本的にロースコアに悩まされたのも、パターンがないからこその強みであり弱みだったと言える。

 

 

2.守備

2-1 相手陣:プレッシング

先に載せたコメントにもあった通り「奪われてもただちにプレスを掛けて奪い返せば攻撃を続けられる」ので、まず狙うのは即時奪回。奪われた直後にボールホルダーに寄せること、そのために攻撃時にも奪われた際のリスクを考慮してポジショニングすることがキャンプから徹底して意識づけられていた。

また、相手がDFラインから繋いできた際にはプレッシングで前からはめ込む場面も。この時の特徴が、外のコースを切りながら寄せること。SHが外側のコースを遮断しながら中央へ誘導するようにボールホルダーへプレッシャーをかけ、それに連動して次のパスコースを封じていく。ピッチ中央ではCHコンビ広いエリアをカバーし、インターセプトやタックルで奪ってマイボールにすることを狙う。DFラインも臆せず高く設定し、できるだけ前で奪いきるという強い気持ちを感じさせた。

前半戦に比べ後半戦になってプレッシングの意識が強まり、一時期はプレッシングからのショートカウンターが武器となった。前半戦→後半戦でのプレッシングの変化の詳細はシーズンレビューVol.2で(製作中)。

 

 

2-2 自陣:セットディフェンス

相手陣で奪いきれない際には陣形を整えてゾーンディフェンスをベースにしたブロックを形成。ただし、ゴール前で撥ね返せばOK!だった2019シーズンとは異なり、ブロックを組みつつもボールを奪う意識は高かった。セットディフェンスで重要視していたのはコンパクトさ。

--チームの守備で、今日良かったと感じたのは?

ディフェンスラインを上げて、コンパクトにブロックを作って守備をし続けることが(今までできなかった課題だったので)改善された。1対1の局面でも勝つ場面が多く、その部分でも改善が見られた。 ― 7節 水戸戦

DFラインを簡単に下げず陣形を維持し、ボールホルダーへアタックできそうな場面では一気に寄せる。こうして簡単に前進させない、ゴールへ近づけさせない意識が高かった。ゴール前で耐久戦をする気はないのでDF陣もスライディング推奨。自陣ペナルティエリア5m手前でもCBがスライディングする光景はなかなか受け入れがたかったが…

一方、ボールへアタックする、プレッシャーを掛けて前で奪いに行くという意識が裏目に出るシーンも。前からプレッシャーを掛けるものの、数本パスを通されプレスをいなされてしまい、DFラインが曝されてしまう、という場面は何度か見られた。同様に、ボールへの意識が強いあまりクロスに対してファーが空きがちになるシーンも散見された。守備についてあまり語らない監督だけに、このあたりはどう考えているのか一度聞いてみたいところ。

 

 

3.おわりに

Vol.1はシーズンとしての評価ではなくチームとして目指したスタイルについてフォーカスしてお届けしてきた。ここで、シーズン総括会見で監督自身がチーム完成度について触れていたので引用。

今シーズン最後の 5 試合を除いた場合には、チームは 60%ほどの完成度にたどり着けていると思います。

50%を超えているのは、なぜならばチーム全体に、おおよそのプレースタイルが浸透したからです。このクラブにとって、新しいプレースタイルへの取り組みでした。そういう意味では、プレースタイルの変更はとても難しい中、チームはいいかたちで新しいプレースタイルに適応してくれたと思います。「ボールを大切にする」というポイントを、選手たちも時間をかけて理解するようになりました。 ― アルベルト監督 2020 シーズン総括会見 

2020シーズンはベースを浸透させながら結果も出すという難しい作業になったわけだが、2021はこのベースを基に積み上げ&結果を求めるシーズンとなる。ベースをさらに強固なものにしつつ、どこに+αしていくのか注目だ。

 

これにてベースの振り返りは終了。Vol.2では2020シーズンの流れを振り返りつつ、シーズンを通しての課題などにも触れていく予定。それではまた、近いうちに。

 

 

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