アルベルト・アルビのコンセプトを読み解く

アルビレックスコラム

 

今季からアルビレックス新潟の監督に就任したアルベルト監督。就任時に「よりコンパクトに、そしてアグレッシブに。全員で守り、全員で攻めていくサッカー」を目指すと語っていた。では、その理想形とはどのようなサッカーなのか。試合後コメントを中心にそのコンセプトを探っていきたい。

 

キーワードは「コントロール」「プレースピード」「ゲームプラン」

 

①コントロール

監督は常々ゲームコントロールの重要性について語っている。ここでいう「コントロール」とはボールを握り、自分たちのペースで戦うこと。コントロールを失ったとコメントしたのは甲府戦、松本戦、山口戦、琉球戦であり、いずれも相手にボールを握られる時間帯のあった試合だ。

 

守備からリズムをつかむスタイルもある中で、アルベルト監督は「ボールを持って主体的に攻めていく」ことにこだわっている様子が窺える。中盤を支配することで自分たちのリズムに持ち込むスタイルだ。そのためには多少の陣形の変更も厭わない。

「最終ラインを5人にすることで中盤の人数が1人減る。それにより試合をコントロールできない時間もあったので、中盤の支配を改善するために、あらためて中盤の人数を増やした。(2節 甲府戦)

 

「コントロール」する上で重要なポイントは二つ。「幅と奥行き」「テンポ」だ。

幅と奥行き

一つ目のポイントは、「繋ぐことばかりに固執しないこと」。一見すると矛盾しているようだが、山口戦後のコメントでこれが端的に説明されている。

「攻撃の奥行きを失ったがゆえに、コントロールを失った。われわれのようなプレースタイルを志向する際、パスをつなぐことに喜びを感じ過ぎて足元でもらう傾向が強くなる。まさしくそういうミスを犯してしまった。前半、足元ばかりで受ける選手が多くなってしまって、背後に飛び出す選手が減ってしまった。(11節 山口戦)

繋ぐことばかりに意識が向くと、自ずとチーム全体がボールに寄ってしまい、スペースがなくなってプレーが窮屈になる。相手にとってはマークすべき敵が密集してくれるので予測が立てやすく、対応も楽になってしまう。

繋ぐ意識を持ちながらもスペースを突く動きを見せることで、相手守備陣は陣形をコンパクトに保つことが難しくなる。相手の陣形を間延びさせれば、空いたスペースにドリブルやランニングで侵入し、守備陣を脅かすことができる。よって、試合をコントロールするためには奥行きと幅を取り続けることが必要不可欠なのだ。

 

今季の新潟ではボール保持時に幅を取るのはSB、奥行きを取るのはFWの役割となっている。時にはSHが幅を取ったり、3バックでスタートした際にはWBが幅を取ったりもする。システムとして一つのやり方を決めるのではなく、自分たちの選手の特長と相手の特徴を照らし合わせ、試合ごとにやり方を微調整していると言える。

 

テンポ

もう一つ試合をコントロールする上で重要な要素として「テンポ」が挙げられる。アルベルト・アルビはボールを奪っても攻め急がない傾向がある。一旦ボールを横に、後ろに下げ、あえてテンポを落とす作業が入る。これまでの所謂「アルビらしさ」はカウンターベースで、奪ったらテンポアップして相手ゴールへ迫る!だったわけだが、それとは正反対だ。

 

仮に縦方向へスピードアップしたとしよう。この時、相手も簡単に前に進ませまいとすぐに帰陣する。十分に帰陣する前に攻撃を完結させようとするとどうしてもスピードを上げないといけない。スピードを上げると周囲を冷静に見て判断できないだけでなく、プレーの正確性も落ちる。よって、折角奪ったボールを失う確率が高くなってしまう。これを繰り返していては「コントロール」できないのだ。

 

試合をコントロールするためには自らのペースに持ち込む必要がある。そのために敢えてゆったりと後ろで繋ぎ、「緩」の時間を作る。そして全体を押し上げた先でタテパスを相手のブロックに差し込み「急」の時間を作る。こうして自分たちを主語にしてテンポを変えていくことで主導権を握っていく。

タテパスや強引なドリブル突破を無闇矢鱈に仕掛けることがよしとされるわけではない。観客にとっては退屈に思えるかもしれないが、横パス、バックパスの一つ一つが種まきとなるのだ。

 

 

②プレースピード

これは「コントロール」にも大きく関わってくる。開始30分が会心の出来だった山口戦についてのコメントから。

「目指しているプレースタイル、パススピード、プレースピードも速く、アグレッシブに戦うことが表現できた(11節 山口戦)

一方、なかなか主導権を握れなかった山形戦では次のようにコメント。

「われわれが求めるプレーをするためには、パススピード、プレースピードが必要。それがなくなると、普通のチームに成り下がってしまう。(6節 山形戦)

今季の新潟は、ボールを持った際は幅と奥行きを取ってピッチを広く使う。相手ボールになればコンパクトな陣形を敷き、できるだけ早い段階でボールを奪うためにハイプレスをかける場面も。それぞれの局面で、そしてその継ぎ目で各選手が適切にポジショニングしていくことが求められる。これを実行するためには、場面ごとにきびきびと動き、適切に動き続けることが重要だ。

 

そして、チーム始動から一貫して意識的に取り組んでいるのがパススピードの向上。今季最初の練習からパススピードについては指導が入っており、試合後コメントでもちょくちょく出てくるワードだ。

前述の通り、攻撃時にはピッチを広く使うため、選手間の距離が離れがちになる。この状態で繋いで前進していく時にのんびりとしたパスを出せば、相手がその間にスライドして対応できてしまう。これでは相手守備ブロックの穴を突くことはできないし、パスカットのチャンスを与えることにも繋がる。パススピードを落とさないことがこのスタイルの生命線ともなるのだ。

 

 

③ゲームプラン

アルベルト監督は前半こそ守備の安定を図って落ち着いてゲームに入るが、後半は選手交代とともにギアを上げる采配が多く、90分トータルでの勝負を強く意識していると考えられる。しかし、これは自分たち本位の考え方というより、相手を見たやり方といえる。

「町田の2列目からの飛び出しをしっかりコントロールするために、守備を固めてスタートしました。プランとしては、その後により攻撃的選手を投入して、さらに攻撃的に戦うつもりでした。(5節 町田戦)

「前半からボールを支配して、相手を走らせ疲れさせる意図を持って入り、後半はスピードを上げて相手を疲れさせ、決定的チャンスを多く作りたかった…(9節 栃木戦)

ただ、流石に全てのプランが青写真通りにいくことはなかった。事実、町田戦では前半を0-2で折り返しているし、相手の攻撃陣を警戒して5バックでスタートした甲府戦も前半の内に逆転を許している。

しかし、リードされて折り返した多くの試合で後半の選手交代をきっかけに持ち直しているのは事実。金沢戦、町田戦、山形戦、栃木戦などが好例だ。5人交代可能という今期のレギュレーションを活かした戦いともいえる。

 

ベンチメンバーは各ポジションから万遍なく選ぶ傾向にあるが、後半のプランを考えつつの選出になっている模様。途中加入選手も多く、今後の選手起用はますます興味深い。

 

 

おまけ

アルベルト監督はチャンスを狙って作ることはできると考えつつも、それが得点になるか否かは運次第と考えている節が強い。

「彼らはFKからのみチャンスを作りましたが、われわれは常にチャンスを作り続けていました。ただ運にも恵まれず、追加点を決めることはできませんでした。(10節 大宮戦)

「われわれは決定的チャンスを多く作れましたが、幸運に恵まれませんでした。(12節 京都戦)

 

シュートブロックでコースが変わったことによる2失点を喫し、後半にシュートを放ち続けるも身体を張って防がれ、3-5で敗戦となった金沢戦後にはこうコメント。

「今日の試合を表現するとしたら、信じられない試合。これだけ悪運に恵まれた試合は記憶にありません。攻撃に関しては多くの決定的チャンスを作れていましたし、3得点できていました。一方、守備では悪運によって、最初の2失点が生まれました。その後は、われわれのミスが各失点につながってしまいました。攻撃において、決定的チャンスをたくさん作りながらも決め切れなかったことも、信じられません。(3節 金沢戦)

一種の強がりにも聞こえるし、監督にはどうしようもないという割り切りにも聞こえる。かのペップ・グアルディオラも「最後の30mは選手次第」と語っているわけで、彼の右腕の右腕たるアルベルト監督もその点は似ているのかもしれない。ただ、最近は毎試合得点しながらも複数得点が少ないあたりは少し気がかり…

 

 


 

というわけで、アルベルト・アルビのコンセプトを監督コメントから探ってきた。今回はコンセプトを中心に大枠を掴むような形でお届けしたが、もう少し具体的にアルベルト・アルビを紐解く記事も作りたい。いつになるかは未定。それでは、また。

 

 

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