アルビレックス新潟 2019シーズンレビュー の1 片渕アルビを考える

ようやく始まりました2019シーズンレビュー!
 
 

構想したはいいものの、書き出すとあれやこれやと書きたいことが湧いてきて膨大になりそうだったので、全3回に分けてお届けします。読みたいところをお好きに読んでいただければオッケーです。

 

というわけで第1弾はシーズン序盤の第1節~第9節、片渕監督時代をプレイバック。シーズン終了後にあらためて数試合の映像を振り返って書いたものなので、うろ覚えで書いた妄想ではありません。ただ僕なりの解釈なのでそこはあしからず。

 

序盤戦の時期に片渕アルビ分析も出しましたが、その頃よりも多くのものが見えていると思います。参考までに。

 

というわけでフチさん時代を振り返っていきます。

※この記事では攻撃:ボール保持時、守備:ボール非保持時として扱っていきます。

 

 

目次

1.基本的戦術

今季の一番大きなトピックといえば監督交代。その理由や影響に関する考察など書くことは色々あるのですが、それはまた、別のお話。

基本メンバーは下図の通り。

スタメン1

 

「アルビらしさ」を追求したこともあり伝統の4-4-2に。新加入組では直人が練習生からDFラインの主軸へと一気に地位を高め、反対にレオナルドは初めこそ先発も徐々にフェードアウトし、彼の良さは引き出せずじまいに。GK+DFライン+CHの7枚が固定だったのに対し、FWは最後まで最適解が見つけられないままでした。

基本的な戦い方は以下の通り。

  • 守備:ミドルゾーンからプレス、マンツーマン気味
  • 守→攻:奪ったら素早く縦に、裏に
  • 攻撃:縦に速く攻める、FWが流れつつサイドからクロス
  • 攻→守:プレスをかけ奪いに行く

 

この時のサッカーを端的に表せば「ハードワーク」。コンパクトな陣形を攻守に渡って保つため、自然と各選手に運動量や強度の高いプレーが求められました。町田や終盤の栃木に近いイメージです。

 

 

①守備

守備ではセンターサークル付近からプレスのスイッチオン。FWもしっかり中央へのパスコースを切り、外へ外へと相手を誘導、SBを中心にサイドで奪う狙いがありました。最終ラインの位置もセンターサークルから10mほど後方で、コンパクトな陣形を保つことを意識していることが感じ取れました。

奪取

これがハマった時には相手を簡単にゴールに近づけさせず、奪ってショートカウンターを仕掛けることができていました。

 

その一方でプレスをかわされてピンチを招くシーンもあり、以下のシーンは何度か見られました。

サイドチェンジ

 

守備の際にスペースを管理するよりも人を見る意識が強く、ボールを持たれた際にCHが相手につられて下がってしまうと、CHとFWの間にスペースが空きやすくなっていました。ここをクサビのパスなどから相手ボランチに利用されるとプレッシャーが一歩遅れ、簡単にサイドチェンジを許していました。守備陣としては視線を変えつつ下がらなければならないため、サイドチェンジからのクロスではマークを見失いやすく、山形戦の1失点目はまさにこの形でやられてしまいました。

また、サイドチェンジの際に最も割を食うのはSH。徳島戦のようにガンガン両サイドに揺さぶられると、コンパクトさを保つためにSHが奔走・消耗し、攻撃に力を割けない状態にもなっていました。

 

そして多かったのがクロスからの失点。相手にサイド深くまで侵入された際、新潟はクロス対応としてDFラインがゴールエリアの長辺を基準にゾーンで構えます。すなわち、下図のように相手選手をマークするよりも1列に並んでゴール前のスペースを消すことを優先します。しかし、このライン設定が低めである上に、CHの選手の位置はあまり決まっておらず、相手選手に釣られることもしばしば。

クロス対応

 

この時狙われたのがライン間へのクロス。DF陣が触れないところに送り込まれクロスに走り込まれ、シュートを打たれる形を何度もやられてしまいました。柏戦や徳島戦、山形戦の失点など複数の試合で見られ、クロスの際に必ずライン間に相手選手が入ってくるため、明確に狙われていた形でした。

 

また、DFラインが深めに位置するため、CHも下がりすぎてペナルティエリア前がぽっかり空くシーンも散見されました。この位置から簡単に決められることはありませんでしたが、あわやというシュートはいくつも。なかなか治ることはありませんでした。

ミドル

 

というわけで、「前進させない守備」はうまくいっていたのですが、ゴール前まで持ち込まれた時に跳ね返す強さはなかなか手に入れることができませんでした。

 

 

②守→攻、攻撃

守→攻と攻撃の狙いはほぼ同じ。しかし、栃木のヘニキのようなロングボールのターゲットがあまり起用されず、メインは地上戦となりました。この時の狙いはFWのサイド流れです。

サイド流れ

 

攻撃に転じた際には相手の中央をこじ開けなければなりません。そのためにFWがサイドに流れることでマークを引き連れて守備陣を広げ、空いた中へSHやCHが走り込む形が多く見られました。

しかしこうして相手を広げても、ゴールに近いはずのFWが幅を取り、ゴール付近に中盤の選手が走り込まなければならず、ゴール前に十分な人数を送り込むのに苦労しました。

縦に速い攻めが多い一方でスピードに優れた選手は多くない上、身長もさほど高くなく、フィジカル面での質的優位を生かす攻撃でもありませんでした。そのため、再現性のある形を効果的に作れているとは言いがたい内容でした。

 

コンパクトに押し上げながら攻撃するため、5節福岡戦のようにブロックを敷かれた際には攻めあぐねる場面多数。ボランチがそれほど中央でボールを触らないこともあり、右CB直人が後方からの繋ぎを支えていました。

尚紀

 

そのような場面ではRSBの尚紀が高めの位置をとり、RSHが内側へ入る形になっていました。押し込んだ場面ではSBの攻撃参加が崩しのカギとなり、その回数は試合を重ねるごとに増えていきました。9節山形戦の尚紀のゴールはまさにオーバーラップが実を結んだものでした。

ただ、両SBとも高い位置を取る場面や、SBのクロスが跳ね返され、手薄な後ろを突かれてピンチとなる場面もあり、SBの攻撃参加はチャンスとリスクの表裏一体とも言えました。

 

 

③攻→守

攻→守ではボール付近の選手がしっかりプレスをかけて相手の前進を遅らせ、他の選手は下がっていきます。しかし、マンツーマンの意識はここでも強く、相手選手につられて埋めるべきスペースを空けたり、ポジショニングが偏ってサイドチェンジで簡単に揺さぶられてしまったりと、安定感があるとは言えませんでした。

 

また、攻撃時に全体が前がかりとなり、CHも飛び出すことで後方が手薄になる場面が何度も見られました。さらに選手間の距離が近い上、攻撃時のポジションが整理されていないため、守備時に戻るべきポジションに移行するまでに時間がかかり、相手の前進を許す場面も見られました。

ネガトラ

 

DFラインの裏のスペース管理はRCB直人のカバーリング能力の高さに助けられてうまく抑えている状況でした。CBに負傷者が続出した影響もありますが、ひと月前まで練習生だった選手がセンターラインとして欠かせない存在になるとは思いませんでした。彼がいなかったらどうなっていたことか…

 

 

2.データで振り返る

それではデータでも振り返っていきます。いつものFootball Labさんにおんぶにだっこでお届けします。(4月19日時点、第9節終了時点でのデータを使用)

〇得失点内訳得点数は5位タイ、失点数は10位タイ

画像4

 

得点内訳はバランスのいい内容になっています。裏を返せばあまりいい「型」を作れなかったともいえます。実際、相手の裏を突く得点はハイラインの千葉戦以外ではほとんどなく、SBも攻撃参加してのサイドからの攻撃から得点に結びつく場面のほうが多かったです。

一方の失点は弱みが明確。セットプレーを含めたクロスに弱かったのです。これは1-①守備の項で触れた通り狙われていたと言っていいでしょう。

 

〇平均プレー回数

画像2

 

ここではいくつかの数字をピックアップ。まずはパス数ボール支配率。ともに20位で、「ポゼッション?何それおいしいの?」と言わんばかりに繋ぐ気がありません。さらに30mライン侵入回数ペナルティエリア侵入回数もそれぞれ19位、15位と低め。ゴール付近までボールを丁寧に運ぶよりも、ゴール前にボールを送り込んで何とかするストロングスタイルです。

そしてリーグ最多のオフサイド数。DFラインの裏を狙う意識がしっかり現れています。オフサイドにはならないようにしてほしかったのですけどね。

守備面ではタックル数が7位。柳下監督時代のアルビ(J1のタックル数上位の常連)と似たようなスタイルを採用していることを考えれば、もう少し奪う守備をしたかったところ。そしてインターセプト数クリア数は15位と22位。クリア数の少なさには、クロス対応時の重心の低さが影響していると考えられます(1-①守備の項参照)。インターセプトやクリアこそカウンターのスタートになるので、この数が改善出来たらもっと攻撃回数が増えたのではないでしょうか。

 

チャンスビルディングポイント(CBP:詳細はリンクから)

画像3

 

パスを繋いでの攻撃が少ないだけに攻撃ポイントも低め。クロスもあまりチャンスとはなり得ませんでした。その中でゴールのポイントが高いのは見事といえましょう。前述のようにもう少し奪取ポイントを伸ばしたかったところ。

 

 

3.強みと課題

ここまで見てきたように、コンパクトにするが故にピッチ上でのポジションバランスは悪く、それを個々の走力や選手同士の連携で補い合うことが求められる、それが片渕アルビでした。千葉戦のように勢いをもって制圧できる試合もあれば、徳島戦のように走らされて消耗する試合も、岡山戦や山形戦のようにハードワーク合戦で打ち合う試合もあり、安定的な結果は得られませんでした。

相手がボールを前線へ運ぶ段階で滞らせればこちらの土俵に持ち込めましたが、徳島のように上手いチームに対してはそう簡単にいかず。DFラインの裏にスペースを与えてくれれば強みを発揮できるものの、簡単にはスペースを明け渡してくれず。相手に対策されてしまうとセットプレー頼みになってしまい、伸びしろはあまり残されていなかったのではないかと思います。

 

また課題となったのがFWの得点力。片渕監督の在任期間、FWの得点は3。得点源として期待されたレオナルドはPKの1点のみでした。元々FWにフィニッシュ以外のタスクが多く求められる戦術ではありますが、それでも結果を出せないと計算が立ちません。より体を張れる宗がスタメンに選ばれるようになりましたが、奏功したとは言えずに終わってしまいました。

 

守備をベースとして戦術を組んだが、攻撃の型を確立させられない。点を取るために多少バランスを崩した結果、点を取れるが失点もかさむ…という終わりのないスライドパズル状態に。J1昇格が求められるクラブの戦い方としては足りない部分が多く、クラブを取り巻いていた状況も鑑みれば、監督交代も致し方なかったのでしょう。

 

 

4.おわりに

今振り返れば、あの時点での監督交代は正解だったのかもしれません。最終結果こそ奮わなかったものの、交代したことでレオナルドが得点王になり、若手が成長・躍動したのかもしれません。

 

ただそんなものは結果論であって、フチさんも、選手たちもその当時は全力で戦っていたという事実に変わりはありません。それはラスト2試合連続でのアディショナルタイム同点劇からおわかりでしょう。フチさんはアルビのために幾度も身を捧げてくれました。そのことに対する感謝の思いは尽きません。

 

「アルビらしさ」を追い求めた片渕アルビでしたが、完成形ができぬまま、道半ばで終了となりました。来季以降アルビを取り巻く状況が大きく変化し、今まで歩んできた道とは別の道に進むのかもしれません。

しかし、2019年の「アルビらしさ」への挑戦もまた、この先も長く紡がれていくアルビの歴史に不可欠な1ページです。その記録の1つとしてこの記事を残しておきたいと思います。

 

 

2019シーズンレビューの続きはこちらから⇩

アルビレックス新潟 2019シーズンレビュー の2 吉永アルビを考える

紆余曲折の先に革命の萌芽 アルビレックス新潟 2019シーズンレビュー byあるけん

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