圧巻の45分と、糧とすべき45分と |J2第3節 vsレノファ山口 2021レビュー

2021シーズン

 

久々のアウェイ遠征楽しませてもらいました山口!
前半だけで終わればアウェイスタンドは満面の笑みで大手を振って帰ったのですが、試合終了後のスタンドはどちらかといえば安堵の表情。それでも勝ち点3のお土産をゲットできて幸せなのでOKです。

ところでこの本。評判良いようですがなんだかんだまだ買ってません。この本に書かれていたエッセンスも実際に試合で見られているようなので、2度目の対戦までには必ず…!

 

目次

1.マッチレビュー

メンバーはこちら。

山口はスタメン一人変更。中盤で加入早々全権を握っていた佐藤謙介がメンバー外。代わりに岸田が今季初スタメンにはいり、高井池上が一列ずつ下がる形に。渡邉式ポジショナルプレーの中心となっていた彼抜きでどうゲームを進めるかに注目が集まった。

一方新潟は一人変更。前節退場してしまった本間に代わり、が移籍後初先発。こちらもキーマンを欠く中、代役の実力発揮が期待された。は元レノファ戦士、藤原三戸(&メンバー外の田中達也)が山口県出身と何かと山口にゆかりのあるチームでもある。

 

①職人鈴木、コンダクター千葉

前節開始1分で失点を喫し、そのまま主導権を握られて敗戦を喫した山口。この試合では反省を生かしてキックオフ直後にSB裏に蹴り込む高校サッカー的戦法をチョイス。追い風も味方してCKをゲットし、最初のジャブを放つことに成功。その勢いに続けと前線からプレスをかける。

 

しかし新潟はここで簡単に捕まらない。ポイントになったのはFW鈴木の動き出し。プレッシャーをかけて前から奪いにいく山口に対し、新潟は左SB付近へ追い込まれるような形に。しかし鈴木がSB裏へ抜け出したり、CH 脇で受けてポスト役になったりしてボールを引き出し、プレスからの逃げ道を作る。フェイクを入れてマーカーを外し、受けたボールを的確に味方に繋げる一連の流れはまさに職人芸。

周囲の連動も見事だった。左SHのはポジショニングを変えながら山口SBのポジションを操作。彼が下がればついてきたSB裏が空く、彼が外に開けばCH脇が空くという形で鈴木が受けるスペースを創り出していた。また、OHの高木(善)も鈴木と同じように時には最前線に、時にはサイドへ流れてスペースを狙い、DFに的を絞らせない。

山口は前半のうちはそれほどマンツーマン気味でなかったこともあり、入れ替わりで顔を出す前線の動きを捕まえきれず。こうしてプレスを回避されてしまった山口は次第に引いて陣形をセットするように。

 

山口は4-4-2の陣形を敷き、パスコースを消しながら徐々にプレスをかけて中央に誘導していく。FWで相手のアンカーを警戒しながら機を見てプレスをかけ、SHがブロック内側のパスコースを遮断しつつ、寄せる際はガッと外へのコースを切って中央に誘導。その先でCHが奪い取る形を狙っていた。 山口は ブロック>プレス でやってきたため、新潟は後方で余裕を持ってボールを持つ。山口の第一線をかわしながら、どのようにCH脇のスペースで受けようとする鈴木、高木(善)、ロメロへボールを届けるか、がテーマに。

ここで躍動したのがCB千葉。彼を中心として長短のパスで山口のブロックを手玉に取っていく。まずは最終ライン中央に位置する千葉から左右へのパスで山口の第一線を揺さぶり、ズレを生み出してタテパスのコースを作り出す。山口の意識が外に引っ張られ中央が甘くなると、すかさず千葉は山口2トップ間を通してアンカーへ。一番警戒されているはずのコースを身体と目線のフェイクで簡単に通してしまう。

またバスだけでなくボールを持ちながら一時停止、かと思えばドリブルで持ち出して角度を変えてパスコースをつくり出す。こうして緩急を加えていくことで、味方に動き直しの時間を与えつつ、相手にテンポを掴ませないようにプレーしていた。ボールも時間も支配する姿はさながらコンダクターのよう。

山口が中央をさらに締めてくれば、今度は空いたサイドへ。アンカーを気にして山口FWが縦関係になればFW脇のスペースを利用。右ではマイケルがドリブルで前に持ち運びながらパスを繋ぎ、左ではCHの島田に加え左SB堀米が入れ替わりで入り、掴みどころを与えない。千葉からのロングボール1本で大外のSBやDF背後のスペースへ一気に届けるシーンも。相手を見て判断することで、4-4-2のウィークポイントを次々打ち抜いていった。

最前線と最終ラインのベテランの働きによって意のままにパスを繋ぐ新潟を前に、山口は最終ライン中心に集中してスライドで対応し続けたが、最前線は守備対応だけで疲弊している様子だった。

 

 

②「アルベルトアルビ2.0」体現の2ゴール

こうして安定してボールを保持した新潟は、サイドアタックを中心に攻め立てる。特に右サイドの藤原ロメロコンビは、内⇄外で入れ替わりながら互いの強みである身体の強さ駆使して押し込みサイド深くでキープ。そこからチャンネルランを繰り返してサイド深くを何度もえぐった。

またこの日も相手陣で失った直後のカウンタープレスは健在。失ってもすぐにプレスをかけて山口に自由に繋がせない。こうしてミスを誘ったのが1点目。ロスト後にプレスを2度3度とかけ続けたこと、こぼれ球も身体を張って繋げたことが実を結んだ。まさに「相手陣で長くプレーする」という今期のテーマを体現したゴールだった。

2点目は無理に攻め込みすぎず、一旦攻撃を作り直したところから。バックパスでピッチを広く使いながら繋ぐ新潟に対し、押し上げ&ショートカウンターのチャンスと見た山口は前線からプレス。山口を自陣に引き込んだところでGK阿部が山口の最終ライン手前のスペースに落ちるようなロブパス。これを見事にコントロールした藤原がそのまま中へ侵入し、相手を使ったワンツーからロメロへスルーパス、丁寧な折り返しを高木(善)がきっちり沈めた。

 

相手陣で相手からボールを奪っての得点。自陣で繋いで相手を引き込んでから一気に加速しての得点。スタイルを見せつける形で名実ともに試合の主導権を握ることに成功した。

 

 

③攻撃的守備に飲まれた山口

守備で相手を捕まえきれずに苦しんでいた山口だったが、攻撃面でも苦労。試合を進めていく中で糸口を探っていくことに。

新潟は前線が3-1の形で、FWとOHが中央のパスコースを遮断し、サイドは変えさせない。そしてSHが山口SBへのパスコース上に立ちながらプレス。こうしてパスコースを限定し中央へ誘導、ボール奪取に強みのあるボランチコンビのところへ追いこんで奪い取る!という形。 山口と似てはいるが、プレスが始まったらマンマーク気味に厳しく寄せ、できるだけ前で奪う。守備であっても「相手陣でできるだけ長くプレーする」なのだ。

これに対して山口は序盤こそ2CB+アンカーの形でビルドアップを選択。SBは外へ開き、内へ絞ったSH&FWが新潟CH脇でタテパスを受けてつないで前進する形を狙った。

しかしこれがなかなかはまらない。アンカーの佐藤が高木(善)にほぼマンマーク気味につかれてしまったため、CBがSBへのパスコースを消されながらプレスされてしまうと、出す先はSHやFWのみに。ただ、中央のスペースは潰し屋の島田&高が君臨。池上や高井が受けようとしても、うまくかわしきれずに迎撃されてしまう。タテパスを受けてもその次のパスコースが作れていない場面が多く、噛み合わないまま相手の勢いに飲みこまれてしまっていた。

 

そこで山口は飲水タイム頃から変更。アンカーにいた佐藤がDFラインまで下がって3バック化。それに合わせて池上岸田も1つずつポジションを下げるような形に。これにより最終ラインで回すことは可能になった。

しかし、前線の選手を1人削ったことで前の受け手が減り、 これによって新潟はより狙いどころを定めやすくなった感も。繋ぎながら前進することができない状況は変わらず、前半の終盤には左SB石川が内側にポジションを取るなどの工夫も見られたが、明確な解は出しきれず。攻守に支配した新潟が圧倒して試合を折り返し。

 

 

④「そこにいる」がダメならば

流れを引き寄せたい山口は後半開始から攻守で変更。

守備では前線からのプレスを強める。新潟最終ラインがピッチ中央付近まで来るとブロックを敷かざるをえず、前半の二の舞になりかねない。よってそこまで押し上げさせないように相手陣でも積極的に仕掛けた。これに合わせて最終ラインも含めマンツーマン気味に変更。動き回り起点となる鈴木へのタテパスはCBがついていって潰し、簡単には前進を許さない。

これにより新潟は自陣深くでつなぐ場面が増加。マンツーマン気味に捕まえられているため、パスコースを作り出せず苦労。リスクを負ったプレーもできず、五分五分に近いボールを前線に送る場面が増えてしまった。こうして自由なボール回しを封じることに成功した山口はボールを奪う位置が高くなり、繋いで攻めやすくなった。

 

そして攻撃での修正。前半はSHが内に入り、SBが外に開く形だった。後半からはこれを逆にした形がメインに。またFWがボールを受けるエリアもCH脇からCBの手前に変更。この修正のポイントは「新潟のCHコンビを避ける」こと。

前半はFWやSHがCH脇に「いる」ことが多かったが、球際の強い新潟CHに潰されてその先へ進めず。そこで、後半はC Hコンビとの真っ向勝負を避けながらボールを前に運ぶことをチョイス。SHが外に開いて新潟SBを引きつける&FWが新潟CBと駆け引きすることでCHを避けつつ中央のスペースを広げる。CHは中盤にあまり入らず、新潟の前線のプレスを引きつけるようなポジショニング。いわゆるミシャ式のような形であえて中盤を間延びさせた。

そして開いた中央へSBがタイミングよく「入る」。SHにもCHにも捕まらないポジションでボールを受けると、開いたSHを使ってサイドから攻撃開始。新潟サポにもおなじみの偽SBの動きを使うことで、前半はできなかった敵陣で押し込んでの攻撃ができるように。

この偽SBの動きで躍動したのが左SB石川。新潟SHの視野からすっと消えたかと思えば守備網の内側に現れてパスを引き出し、パスをつないで前進に貢献。かと思えばD F裏へ抜け出してクロスを上げたり、ゴール前に侵入してゴール右からシュートを放つ場面もあったりと神出鬼没。「石川ロール」と呼びたくなるような動きでDFを翻弄。

後半から投入された選手たちも効いていた。田中はアンカー位置に入り、無闇にDFラインには下りずに中央で的確にパスコースを作りサポート。これにより後ろに逃がすパスコースが生まれ、ボールが循環しやすくなった。FW梅木はCH横ではなくCB手前でボールを引き出し、身体を張って前線で起点に。ここでの踏ん張りが前進する上で効いていた。

山口の修正の前に前半のボール保持→崩し→即時奪回→保持→…のサイクルを回せなくなった新潟。プレスを掛けようにも山口SBを捕まえきれないためにうまくハマらず。相手の中盤の間延びにお付き合いした結果、スペースを使われて前進を許す場面も。前半の余裕たっぷりな戦いはいとも簡単に終わりを告げてしまった。

 

新潟は仕方なく全体を下げてブロックを敷き、中央のスペースを消す形に移行。さらに交代で谷口を入れ、マンツーマン気味に寄せてくる山口SBの背後を狙った。

この2つの策はまずまず奏功。スペースが消されたことで山口の前線にボールが収まる場面は減少し、谷口の裏抜けから押し込む場面も作り出せるように。サイドアタックからのクロスでゴール前に侵入、シュートの増えていた山口も、新潟の修正後はチャンス減。ゴールの匂いは薄まっていった。

 

イーブンな展開で最終盤に突入したが、アディショナルタイムに色気を出して崩しにいった新潟が相手陣でロスト。橋本の運びから浮田がコントロールから思い切ったショットで1点を返したところで試合終了。似たスタイルの対戦ながら互いに自分たちの時間を作り、双方にプラスマイナスを持ち帰る試合となった。

 

 

2.試合結果

山口 1-2 新潟

得点者 山口 90+3′ 浮田 健誠
得点者 新潟 13′ 星 雄次 38′ 高木 善朗

詳細なデータはJリーグ公式サイトFootball Labへ。

 

 

 

3.雑感

今季の新潟は相手陣でできるだけ試合を進めたいチームなので、その意味で前半はスーパーだった。1点目のアシストをした島田がペナルティエリア前にいたのが象徴的。今季の新潟は「CHがどれだけ高い位置を取れるか」が調子を測る1つのバロメーターになりそうな予感。

後半に主導権を取り戻しきれなかったのは少し気になるかもしれない。もともと昨シーズンからの傾向で言えば逆転力は乏しく、どちらかといえば先行逃げ切りタイプのチームなので、前半の内に2点取れたこの試合は御の字と言っていい。ただ、後半の山口のハイプレスは北九州戦と同じように新潟を滞らせるための策として有効になりそう。そこからの回避策、主導権を奪い返すための策は持っておきたい。

 

山口に昨年の新潟の姿を重ねる人も多かったのではないか。ただ、最も違うのは柔軟性。新潟はポジションを流動的に入れ替えるが、選手の配置自体は大きく変わらない。一方山口は相手を見て試行錯誤し、後半のように大胆に中央を開けてしまうことも選べる。アルベルはこれはしないな〜と思わずにはいられなかった。

これはもちろん両監督のポリシーの差なわけだが、その頑固さ、柔軟さは強みにも弱みにもなるわけで。山口の歩む道がどうなるのか、というのは新潟サポ的には気になる。

 

  • 背番号10の不在について

正直な話、前半のうちは山口が迷ってくれたこともあって至恩がいようといなかろうと出来は変わらなかった気がする。ただし後半は別。こちらがなかなか前進できず、プレスもハマらないという状況ではやはり彼が欲しくなった。苦しいときほど頼りたくなるのがエースなのかもしれない。

彼のストロングポイントはドリブルとプレス強度。彼のキープ力で全体を押し上げる時間を作りたかったし、彼の2度追い、3度追いの迫力で山口に繋ぎづらさを与えたかった。特にプレッシング強度についてはチームでも群を抜いている。ロメロは開幕戦の失点シーンで前に寄せられていなかったし、星はWB的感覚が残るのか後ろを気にしつつ徐々に寄せていた。これだとなかなか迫力が出ない。

思えば去年10月ごろのプレッシング→ショートカウンターがはまっていた時期のSHは至恩&中島。彼らの属人的なプレス強度によって成り立っていたと言ってもいい。同じくらいできる選手がもう一人は欲しい。いや、別に彼に戻ってきてほしいだなんて、そそそんなこと言っているわけでわわわ…

ともかく、ハイプレス&ショートカウンターをさらに磨くためにもSHには頑張ってもらわにゃいかんのです。そこを磨くことがスタメンへの近道なのです。がんばれ控え組。

 

3連勝とはいえ少しずつ対策は進むし、連勝ストップへ相手の意気込みは増すはず。それをいなしてさらなる高みへ進みたい。

 

 

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