取られた手綱は奪い返せ |J2第14節 vsFC琉球 2020レビュー

2020シーズン

5連戦最終日。試合の連続を抜けると、その先には9月の足音が…時の流れは早い。

 

そんなこの試合、最も印象に残った人といえば播戸竜二解説員で異論はないだろう。解説という概念を覆す発言量。実況が1話すと5で返してくる熱量。出された話題に全部コメントを返す播戸解説員vsリターンパスをスルーし続ける吉田アナの攻防は見ごたえアリ。吉田アナが「…途中出場でも結果を出し続けた播戸竜二さんが今日の解説です」と話題を終えようとしたところで「途中出場だったんでそんなに疲れなかったんですよね…ハハッ…」と自虐交じりに付け加えた播戸解説員の意地がこの日一番の見どころだった。

「大宮でも見てましたけど…あれはハンドですね」「ブラジルでは蹴ってなかったんでしょうね」という謎のツボにはまりそうな発言もあり、聞いたもの皆に確かな印象を残した。タマジュン以来の色の濃い解説が無駄に気になり、筆者は試合に集中しきれない始末だった。今後の活躍が楽しみかもしれないし、そうではないかもしれない。

 

 

目次

1.マッチレビュー

メンバーはこちら。

新潟はスタメン4人変更。矢村はプロ初先発、荻原は新潟加入後初先発となった。加入したばかりの福田も早速ベンチ入り。アルベルト監督の実戦で慣らしていくスタイルがにじみ出る構成に。

一方の琉球は3人変更。CBの李栄直が復帰するも、6得点でチーム得点王の阿部は召集外。MF登録の風間がゼロトップ気味の布陣に。

 

①狙い通りの理想的な立ち上がり

互いにボールを持ちたがる両者だったが、先にボールとペースを握ったのは新潟。質的優位も生かしながら早速ゴールへと迫っていく。

 

新潟はおなじみの3バック化&SB上げビルド。そしてこの日は前線の形が流動的に。

2トップ(渡邉&矢村)は主にCB-SB間、チャンネルと呼ばれるエリアにポジショニング。DFの間を抜けてボールを引き出し、ここから仕掛けやマイナスへの折り返しでチャンスを演出。そして空いた中央のスペースにはSHの高木や中島がランニング、時にはボランチの秋山や島田が顔を出し、厚みのある攻撃を仕掛けた。

これは、琉球守備陣の特徴を踏まえての狙いと考えられる。琉球の守備陣は人につられがち。CBもその傾向が強く、この日も先発した李栄直は以前の試合でFWに食いついたことでゴール前のスペースを空け、そこを使われ失点していた。ボランチがCB前のスペースを埋めるタイミングも一歩遅い印象だった。

これを分析した新潟は、まずFWがサイドに流れることでCBを釣り出し、中央が空いたところで後ろの選手が走り込むという狙いにしたと考えられる。序盤はそれを思いのままに発揮。ゴール前で秋山がフリーでシュートを打つなど、チャンスを次々に演出。

 

また、この日は敵陣での即時奪回に何度も成功。もともと琉球は急いで攻めるチームではなく、ボール奪取後はパスを繋いで陣形を整えながら全体を押し上げていく。しかし、新潟はパスコースを消しながら素早く寄せて落ち着く暇を与えない。

こうして序盤は完全に新潟が試合を掌握。できればこの時間帯にリードしたかったが、ゴールは奪えず。何とか序盤をしのいだ琉球は修正を施すことで攻守両面において持ち直していく。

 

②奏功したポジションチェンジ、機能不全のゼロトップ

序盤、琉球は自信を持っているはずのビルドアップで大苦戦。アタッキングサードへ持ち込むことができずにいた。

 

その原因となったのはボランチのポジショニング。琉球のビルドアップは新潟に似ており、SHを絞らせSBを上げる形。しかし、ボランチが下がることは少なく、CBとボランチの4人でBOXビルド。

これに対し、新潟は2トップがCBにプレスを掛けつつ、背中でボランチへのパスコースを消すことで対応。琉球のボランチが動いてパスコースを作らなかったこともあり、CBが出しどころに困るような場面が頻発。

そこで、本来SH-SB間にポジショニングして相手を困らせる役回りの琉球SBがサポートのために下りることに。すると琉球SBが新潟SHの視界に入りやすくなり、新潟のプレッシャーを強める結果に…

こうしてボランチを亡き者にされたことで窒息してしまった琉球。さすがにこれはいかんと樋口監督はボランチの山口とトップ下の小泉をポジションチェンジ。

 

すると、小泉は前へ後ろへと縦横無尽に動き回り、新潟FWのパスコース消しを交わしてCBからボールを引き出す。これが気道確保の一手となり、琉球はボランチでボールを持てるように。中でボールを持てば新潟は中を締める。中が締まれば外が空く、ということで徐々に琉球本来の姿がようやく戻ってきた。

 

また、小泉がボランチに入ったことで攻撃面だけでなく守備面でも持ち直し。プレスがよりハマるようになった。

SHが外のコースを切りながら左右のCBに寄せ、中央にパスが出たところを刈り取る!が琉球のプレッシングの狙い。奪いどころとなる中央で運動量豊富に、球際も激しく当たれる小泉が気を利かせてポジショニングすることで新潟の攻撃をストップ。

この場面、新潟としては前節京都戦で本間至恩がやったようにSHが下がってボールを受ければ解決しそうだったが、この日はその動きは少なく。ハメられたままとなってしまった。

 

しかし、琉球が前からのプレスをひっくり返されてカウンターを受ける場面もあり、チャンスを活かして新潟に先制を許す。前がかりになっていた隙を突かれる格好となった。

 

更に、この日の琉球はトップスコアラーの阿部を欠き、風間宏矢のゼロトップ気味。阿部は前線でDFラインと駆け引きをし、ポスト役もこなすありがたーい存在だったが、風間は前線の基準点となりえず。戸惑い気味でゼロトップ気味にポジショニングしていたが、上手くボールは引き出せない。攻撃に深さを作れないことで、いつものバイタルにタテパスをバシバシ入れる形も見せられず。持ち直しはしたが、ペースを五分に戻す止まりに。

 

③息を吹き返す琉球スタイル

後半から琉球は選手交代。鳥養に代えて池田を投入し、FWに配置。これが前半解決できなかった攻撃の深さ問題の解答となる。

 

池田は時折下がって受けながらも、基本はDFラインと同じ高さで駆け引きし、背後を狙う動きを見せる。これにより新潟の最終ラインが多少下がり、その分琉球のMFがスペースを得られるように。

これにより新潟はコンパクトな陣形でプレスをかけることが難しく。大外の琉球SBも高い位置を取れるようになり、攻撃面での貢献度が上昇。中央で繋いで新潟を中央に引き付け、大外に展開してからのアーリークロスにFWが抜け出して合わせる形を何度も作っていた。

アーリークロスだけでなく、バイタルに人数を送り込み攻め立てるスタイルも健在。選択肢を十分に作ってパスを繋いで前進。じりじりと新潟守備陣を後退させていく。

琉球が完全にペースを掌握した後半、新潟はなかなか全体を押し上げる場面を作れない。ボールを奪った後の展開が前に前に急ぎすぎてしまう。FWが力強くキープできるタイプではないため、一旦落ち着いて自分たちの時間を作ることができず。ならばと素早くDFラインの背後を突こうとするも、琉球は強気で最終ラインを上げ、カウンターに対しても集中力高く対応。パスが雑になったこともあってかうまく抜け出す場面も少なく。

 

なかなかうまくいかない新潟はシルビーニョ、堀米に加え新加入の福田も投入。しかし、前線に入ったシルビーニョは時間をかけてキープして、が得意ではないこともあり、試合のテンポを変えるには至らず。

また、シルビーニョは琉球のキーマンである小泉の監視役を任命されたのかマンマークのそぶりを見せる。しかし小泉はさらに行動範囲を広げてこれをかわす。こうして交代策はうまく効かず。

 

長身の上原も投入して攻め続けた琉球。しかし決定機までは至らず、決めきれず。交代枠も使い切ってどうにか時間を使い切った新潟が逃げ切りタイムアップとなった。

 

 

2.試合結果

新潟 1-0 琉球

得点者 新潟 43′ 高木 善朗
得点者 琉球

詳細なデータはJリーグ公式サイトFootball Labへ。

 

 

3.まとめ

序盤の楽勝ムードに比べれば気の抜けない終盤になってしまった。結果から言えば前半の内に取れたことが大きかった。序盤で試合を決めきるくらいの力強さが欲しいと願うのは高望みだろうか。

後半は特にだが、相手に時間を渡してからそれを奪い返すことがなかなかできなかった。今季の新潟は「あえてテンポを落とす」ことで試合を掌握しようとしている。その点から言えば前に急ぎすぎていた。出場メンバーの入れ替わりが多い中での意思統一は難しいのは事実だが、連戦で頭も身体も疲れた中でもそれを貫くことがチームとしてのレベルアップには不可欠。久々の中5日で再確認し、一丸となってスタイルを体現する姿が見たい。

 

  • 新潟夏のスライディング祭り

タイトルについてはアルビレックス新潟公式LINEを見ていただければ。

守備時に一発でタックルに行く点は最近気になっていたところ。山口戦の失点シーンでのマイケルのスライディング然り、京都戦での失点シーンやマウロのイエロー然り。少し遡れば大宮戦あたりから史哉が一発でタックルに行ってかわされる場面も何度か。

スライディングは ”やってる感” の出る対応だが、すぐに立ち上がることができないため「最後の手段」とも言われるもの。それをあれだけ簡単にやってスコンと抜かれた暁には…

また祭りに感化されてか、雑な守備対応も増えたような印象。疲れがたまって我慢しきれず足や手で止めたくなるのかもしれないが、いささか不用意。イエローカードを10枚貯めたらカレー皿プレゼント!というわけでもないんだから無駄な紙はもらわないでください。どうか我慢強い対応を頼んます…

 

  • 新戦力

中島はすでに「俺、キャンプからいましたよ?」と言わんばかりの存在感を放っているが、荻原と福田はさすがにまだまだ。

荻原は「左の大本」という印象。オープンスペースでの迫力ある突破、高速クロスがもっと活かされないかと楽しみになる。一方、足元でのコントロールが丁寧というわけではなく、ビルドアップの際には少し落ち着かない。琉球のプレスの狙いどころとなっているようだった。

このチームのSBにビルドアップでの貢献は不可欠。アルベルト監督は試合を通して慣らしていくだろうが、個人戦術、チームの狙いの理解度を高め、さらなる力を発揮してほしい。

 

福田は初のベンチ入りから40分ほどプレー。CBの脇に降りてビルドアップを助けたかと思えば、相手ビルドアップ時には小泉について言って簡単に起点を作らせず。広範なカバー力と気の利いたポジション取りは鳥栖時代そのままだった。

中盤にダイナミズムをもたらせる存在だが、先ほども言った通りこのチームではテンポを落とすことも重要。力強く流動的な動きで「急」は既にもたらせる分、「緩」を体得すればかなりのキーマンとなるはず。完全移籍の覚悟に期待したい。

 

 

ようやく一休み。負けが込まないのはいいことだが勝ちきれない印象もある。「チームは順調に成長している。1巡目が終わる頃には、チームの完成度は高いレベルに達しているでしょう。(アルベルト監督)」この言葉を現実とするべく、次節から始まる難敵ぞろいの西日本決戦で更に積み上げ、秋以降のジャンプアップに繋げたい。

 

 

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