アルベルト・アルビの変化を読み解く ―フィニッシャー型SB爆誕のワケ―

アルビレックスコラム

 

右SHのクロスに合わせてゴールを決める右SB田上、左SHのクロスにドンピシャで合わせる左SB早川…

前半戦では全く見られなかったこの戦術。突然気の向くままに自由にプレーすることが許された……というわけではもちろんない。むしろ必要に迫られて、と言った方がしっくりくるだろう。なぜこのような「異常」な状態が起きているのか。変化の要因について考えていく。

 

 

突如起きたシフトチェンジ

シーズン序盤からパスを繋いでピッチを広く使い、試合をコントロールするサッカーを見せていた新潟。序盤こそ様々なシステム、選手を試していたが、メンバーの入れ替えやフォーメーション変更、新加入選手の融合を経る中で徐々に方向性が定まっていった。前半戦も終盤に入ると固定メンバーとも言える形に収まり、連戦の中でも”いつメン”によるサッカーに。こうして前半戦でアルベルト・アルビは一つの完成形を見た。

 

しかし、後半戦初戦の22節から唐突に選手もポジショニングもガラリと変化し、明確にシフトチェンジ。特に攻撃時の陣形は様変わりした。主に変化したポイントは3つ。

①サイドの役割分担の変化

前半戦、SHは内に絞って中央でパスの受け手&ゴールへのアタック役、SBは大外で高いポジションを取りビルドアップの幅広げ役&クロッサー。この役割を入れ替えることはなく、SBが相手陣深くに入ることはほとんどなかった。

しかし、後半戦ではSHが初めからサイドに幅広くポジショニング。DFラインを横に広げさせつつ、タッチライン際でボールを受けると仕掛け&クロス。

これに対しSBは、CHの位置に入ってビルドアップを助けたり、SH-OH間のスペースに入り込みIHのように後方からのパスを受けてターン&展開したり。果てにはクロスに対してゴール前に入って合わせるFWのような振る舞いも。明確なタスクの変化が起きた。

 

②サイドの切り込み強化

サイドでの役割変化に伴ってサイドへの侵入具合も変化。前半戦ではSHが内側に入ることもあり、サイド深くに侵入することは稀だった。その理由としてはサイドに人数をかけることで中央が手薄になり、致命的なカウンターアタックを食らいやすくなることを嫌ったからだと考えられる。

しかし、後半戦からはサイド奥深くまでドリブル侵入する場面が増加。本間や大本、中島といったボールキープ&仕掛けのできる選手がSHとなり、ペナルティエリア脇まで切り込むようになった。

 

③ポジションチェンジの増加

前半戦の新潟はポジションを流動的に変えることは少なく、ビルドアップ時にCHが1人下がって3バック化する以外に流動的な入れ替わりはなし。ポジションチェンジ?何それおいしいの?状態。サイド深くへ切り込まないこともあり、バランスを崩すことを嫌った慎重な戦いぶりが印象的だった。

しかし、後半戦では全体としてポジションチェンジが増加。CBとSBが入れ替わってビルドアップしたりOHがサイドに流れたり、CHがゴール前に顔を出したり、… ポジションチェンジ最高!状態に。夏休み明けにいつの間にか髪を染めていた大学の同級生のようなイメチェンぶり。

 

なぜこのようにガラリと変化したのか?彼女が出来たから…ではもちろんない。むしろある人を失ったからこその変化と考えられる。その人とはチーム得点王、渡邉新太だ。

 

 

エース欠場で生じた穴

渡邉新太が担っていた役割を端的に言えば “フィニッシャー兼チェイサー” 。相手DFの背後を突く動きと得点感覚を活かしゴールを重ね、相手がボールを持てば前線からプレッシャーを掛けてチームを助ける。

パスを繋いでチーム全体で前進する今季のスタイルに背番号11はがっちりハマっていた。DFラインで繋いで相手にブレスを掛けさせ、前がかりになった背後のスペースを突く必勝パターンができつつあった(15節福岡戦、18節千葉戦2点目等)が、この仕上げ役としてフィニッシュワークに何度も関わっていた。

本人もゴール数を重ねるごとに自信を深めている様子で、チーム唯一の開幕20戦連続出場と監督の信頼も厚かった。

 

しかし、連勤が響いたのか20節徳島戦終盤に負傷。骨折で全治約3ヶ月に。キーマンを失うことになってしまった。

 

これにより手を加える必要が出たのは以下2点。

①得点力の補完(FWの駒不足)
②前線からのプレス

①については某案件によりもう1人のFWの軸だったファビオが起用できなくなる可能性があったことも関係している(まあ事件後6試合起用したわけだが)(おい)

この2つを一気に解決するウルトラマンはもちろんいない。鄭大世を起用すれば①はある程度クリアだが、2トップの相方に②の負担が大きくなるし、2トップをやるにもまずFWがいない。

 

というわけで大幅見直しが必要となった。そこで編み出されたのが『SB→FW化計画』だ。

 

 

アルベルト監督のリメイク術

シーズン半分を残して変化を迫られることになったアルベルト監督。これまでの「ボールを愛する」ベースは変えずに課題克服に挑んだ。

課題① 得点力補完 → ゴール前の人数を増やす

先に挙げた後半戦の3つの変化。それはこの課題克服のための策であった。水戸戦後のアルベルト監督のコメントが印象的。

われわれはボールをつないで全選手で攻撃するスタイル。より多くの選手がゴール前に現れることを狙っている。それゆえに、CB、SBさえもがゴールを決めている。

前半戦に比べCHやSBがゴール前に顔を出す場面が増加。SHが高い位置で幅を取ることで相手DFラインを下げさせ、鄭大世を中心に人数をかけた攻めを展開して得点を狙うようになった。

この時特徴的なのがクロスの入り方で、SHのクロスに対して同サイドのSBが合わせる場面が多くなっている。これには最短距離で走る意味合いもあるが、ニアに走り込むことでDFの目線を引きつけ、ファーで待つ鄭大世のマークを緩める効果もある。

特にDF登録の田上はインターハイ得点王経験のある元FW。得点感覚の鋭さは開幕当初から見せていたが、SBとして起用して上がらせることでDFWの適役となった。

 

課題② 前線からのプレス → 全体でのプレス強化

渡邊新太欠場の影響でプレスを弱めることも考えられたが、むしろ前から強くはめて奪ってショートカウンター!という場面が増えた。それはなぜか?

SBで得点力を補完するべく田上の起用が増えたが、彼はビルドアップの能力は高くない。パスを出す直前で判断を変えられる舞行龍ジェームズや新井ほどの余裕をDFが持つことは難しい。というわけでビルドアップの安定感は前半戦より欠けることになる。

 

なら後ろで奪うより前で奪った方が自陣ビルドアップ省けてラクじゃん!ということで前からハメる形が増加。相手陣でボールを奪って素早く攻める場面は格段に増えた。プレス&ショートカウンターが強みのチームへと変貌を遂げている。

これを可能にしたのが福田・島田のCHコンビ。彼らは運動量を活かして広い範囲をカバーしつつ、ボール奪取力も兼ね備えている。この2人がピッチ中央を広く管理しつつ、相手選手に厳しく寄せてボールを刈り取る。前線からのプレスで中央へ追い込んだ先の奪いどころとして戦術変化後のキーマンとなった。

 

と、ここまで良い面ばかり語ってきたが、変化による弊害も。

 

 

新たな課題

①ポジションバランスの悪化

得点力増強のためにポジションの自由が利くようになったが、サッカー選手はみな前へゴールへ向かいたがるもの。前傾姿勢になりすぎ、後ろのリスク管理が手薄になることが増えてきた。

SBが高い位置を取るためには、彼らが上がる時間を稼ぐ必要がある。そのため両SHにはボールキープ力のある選手(本間、中島)が起用されているが、彼らはサイドに大きく広がるため、やはり中央は手薄になりがち。前半戦よりも選手が幅広く動くようになったことで、ピッチ上のどこかしらには埋めきれない穴ができている。

30節東京ヴェルディの2失点目は顕著。GKのキックの跳ね返りから中央での前進を簡単に許し、左SBが戻り切れなかったところをシンプルに使われて失点。ポジションチェンジによって相手のバランスは崩せるが、同時に自分たちのバランスも崩れてしまうもの。チーム全体のバランスを見ながらどこでどうリスクを冒すかの判断が迫られる。

 

②CHの負担増

①とも関連するポイント。SHやSBがスタートポジションから動く分、空いたエリアをカバーするのはCHの2人になる。福田・島田の2人は広範囲をカバーするにはうってつけのコンビで、彼らに助けられてきた場面は両手では数えきれない。

しかし彼らも人の子。試合終盤には疲労してしまい、カバー範囲は狭くなってしまう。おまけに交代出場する選手は前へ前へと向かう選手が多く、それに釣られて雑にでもいいからゴールへ!というプレーが全体として増えがちに。こうしてコントロールを失う試合も出てきた。

福田・島田コンビがありがたい存在なのは間違いないが、頼りすぎるとしわ寄せが集中してしまう。ゴンサロが負傷し彼らの代わりとなるCHの駒が少ない状況でもあるが、彼らが上がれば他の選手が下がってカバーするなど、ここでもチームとしてのバランスを求めていきたい。

(32節北九州戦で福田が負傷退場。またやりくりが大変になってしまった…)

 

③崩しの局面での消化不良

前半戦から続く課題とも言えるゴール前の崩し問題。前半戦はSBを上げさせなかったこともあり、中央突撃orアーリークロスの単調な攻撃で硬直化してしまっていた。後半戦になり相手陣深くまで侵入して崩しを狙う場面が増え、人数をかけた攻撃も増えた。しかし押し込みすぎると崩しきれない点は変わらず…

特にこのチームは3人目の動きが少ない印象で、DFラインの背後を取る動きは後半戦になり更に減ってしまった。相手ペナルティエリア付近での連動した動き出しは徐々に見られるようになったが、タイミングがうまく合わない場面もまだまだ多い。

 

崩しきれない今のチームの得点源はCKと敵陣プレスからのショートカウンター。CKの流れから6得点、ショートカウンターから3得点と共に前半戦以上の数字を叩き出している(筆者調べ)。11試合18得点と後半戦も高い得点力を保っているが、崩しの精度も上がってくれば手をつけられない攻撃陣になるはず。残り試合でここに改善の兆しが見えれば、アルベルト体制2年目への期待はさらに膨らんでいくに違いない(2年目を見させてくださいお願いします)。

 

 

さいごに

突然できた大きな穴をベースは保ったままに選手起用の妙で上手く作り替え、その上成績も落とすことなく戦っているアルベルト監督の手腕は見事。

 

ただ、ペースを握りながらも決定打を打ち出せずに勝ち切れない試合は多い。引き分け数13はリーグトップタイ(31節現在)。足りない部分を隠しながら上手く戦ってはいるが、上位対戦では勝ち点を積みきれず、昇格圏との差はなかなか詰められていない。

結局のところ、今の戦術は駒不足から生まれた苦肉の策といえる。シンプルな王道な戦術ではなく、バランスを取るのが難しいやり方のため、練度が高まるまでどうしても時間がかかってしまう。それこそが決め手に欠ける要因とも言える。この戦術を来季も選ぶのか?と言われると可能性は低いのではないかと思う。

 

しかし、裏を返せばこのチームのこの戦い方は唯一無二。このサッカーを見られるのもあと10試合ほど。儚くも絶妙なバランスのエンターテインメント、アルベルト・アルビvol.1 を楽しめるのは今だけ。最後まで刮目して見よ。

 

 

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