片渕アルビのフレームワーク分析 後編

※前編(メンバー・基本システム、守備、ポジティブトランジション)はこちらから

片渕アルビのフレームワーク分析 前編

目次

4.攻撃

攻撃も二局面。ビルドアップは相手の第1プレッシャーラインを越えるまで、ポジショナルな攻撃はビルドアップ後、敵陣に入ってからの攻撃です。

ちなみに、ビルドアップは守備におけるプレッシングの局面に、ポジショナルな攻撃は組織的守備に対応しています。

ビルドアップ ・・・ダイレクトなビルドアップ

ビルドアップに関しては下のパスネットワーク図を見てください。ここで見てほしいのは後方でのパス数です。CB+加藤のトライアングルでのパス交換が非常に少ないです。これをポゼッション志向と呼べるはずはない。完全にダイレクトなビルドアップです。

この図で特徴的なのは、後方では右CB、右SB、ボランチの一人(カウエ)がトライアングルを作って数多くのパス交換をしているのに対し、左CB、左SBはあまりパス回しに関与していないことです。

実際の試合映像を見ると、左CB、左SBから出るパスは多くが裏狙いのボールで、主にCFへのロングボールでした。ポジティブトランジションの項でもいった通り、まずは裏を狙うというところが徹底されているのだと思います。ただ、ロングボールの成功数が少ないのも事実…

一方、右では右CBの新井が冷静に繋げるので、一旦そこに戻してやり直し、ということもあります。また、彼はフィードの精度もよく、京都戦の50分のシーンではアウトにかけたグラウンダーの伸びるパスをCFにピタリと出し、アルビサポをどよめかせました。マジでエロいのでぜひ見てください!(↓動画 1:00~ のシーン)

昨年スタメンで出場し、繋ぎにおいて大きな貢献をしていた広瀬がけがで抜けた穴を埋めて余りあるほどの活躍をする背番号32ですが、この間の福岡戦では「新井シフト」とでもいうような対策が敷かれたようで、それに対する対応策が必要となってきます。

最後にデータで補足。今季のアルビはJ2で最もボール支配率が低いです。繋ぐ気はないよ、まずは守りからだよって感じですね。

Football Labより)

 ポジショナルな攻撃

ここまででお分かりの通り、このチームはディフェンス重視となっています。片渕監督はインタビューで「良い攻撃をしたい。そして良い攻撃は良い守備から生まれる」と言っていたので、前傾姿勢で攻めることは今後も多くはないと思います。

よって、ポジショナルな攻撃の形というのは今のチームではなかなか現れにくいです。ただ、ジェフ戦ではハイラインの裏などのスペースがあり、それをうまく使うことで効果的に攻めていました。

また、ジェフ戦で見られたのは、ハーフスペースを使おうとする狙いです。(↓写真の黄色いスペース)ハーフスペースについての説明はfootballistaさんにお任せします。

(footballista  「ハーフスペース」とは何か? ウルティモ・ウオモ戦術用語辞典#1 より)

ジェフ戦ではハーフスペースを使いまくってチャンスを何度も作れていました。

・動画開始直後のシーン

右ワイドの戸嶋がハーフスペースで受け、相手DFを引きつけて右SB川口に繋ぐことで、ほぼフリーでクロスを上げられました。

・3:18~ の2点目のシーン

DFライン裏のハーフスペースにボールを送り込むことで相手のCBを引き出し、その結果ゴール前中央がガラ空きとなって高木がゲット。

・4:57~ の4点目のシーン

新井がハーフスペースでうまく動き直してパスを受け、天井に突き刺す。新井の最初の動き出しの際に渡邉(新)も同じスペースに走りこもうとしている点も見逃せません。

高木や戸嶋はこのスペースでうまくパスを受けるシーンが多く、チームとして狙う部分なのか、彼らがハーフスペース使いに長けているだけなのかは正直分かりません。固定メンバーなので。

一方、相手もブロックを作ってスペースを消してきた際には苦戦します。この間の福岡戦は顕著でした。相手の作るブロックの外側で回し、どうしようかと考えているようなシーンは何度も見ました。

その場合の解決策としてボールを逆サイドに展開してブロックを揺さぶることが挙げられます。実際、福岡戦ではそのような攻めも何度かあり、ゴールを脅かしていました。

・動画開始直後のシーン

ブロックの大外を一本のパスで突くことで決定機につながりました。福岡は全体がボールウォッチャーとなり、そこにダイレクトでの見事な折り返し。達也ぁ~~~

・2:57~ のシーン

左→中央→右と斜めにパスをつなぎ、少しボールウォッチャー気味となった福岡の2ライン間の隙間を丁寧に突きました。これはゴールだろぉ~ ゴールだと言ってくれよぉ~ (泣)

下の福岡戦のワンシーンのように攻撃時も陣形がほぼ変わらない(ネガトラ対策のために変えたくない?)ので、やはりサイドからの攻撃を磨くのがいいのかなと思います。少し違う動きをしているのが左ワイドの高木。中央に入ってプレーする場面が何度もあり、陣形は少し崩れます。でもネガティブトランジション時に頑張って走ってくれるのでOKです。

なんだかんだ書いてきましたが、片渕アルビは相手の崩し方を明確に持っているとは言いがたいです。まだまだ発展途上でしょう。福岡戦のようにブロックを作られると苦戦しそうです。右サイドで崩しの形を作る、あるいは達也→シルビーニョでドリブルやキープ力を生かす形にするなど、うまく最適解を見つけてほしいものです。

最後に昨年の岐阜戦の快勝劇を見ておきましょう。この試合ではハーフスペースを突きまくって夢スコアをゲットしました。僕は、この試合のように両サイドバック、特に右SB川口尚紀が攻撃で輝くことが重要だと考えています。外から中から駆け上がるシーンを何度も見たいです。

5.ネガティブトランジション(攻→守)

ネガティブトランジションはゲーゲンプレッシングリトリートの2種類があります。この二つの比率にチームの色が出やすいと言えます。バルセロナにはボールを奪われたら5秒(6秒?)間はゲーゲンプレスをかけ、奪えなければリトリートするというルールがあると聞いたことがあります。

片渕アルビでは、何度も言ったようにブロックを作って中央を固めることが最優先事項です。だから、ボールを奪われてすぐにチーム全体として奪いに行く回数は少ないです。

横浜FC戦のワンシーンを例に見てみましょう。DFラインの裏を狙ったスルーパスがカットされ、ネガティブトランジションへ移行。

相手のシャドーへの縦パスに対してボランチのカウエが寄せます。

相手ボランチへの落としにもついていきます。

サイドに展開したら、今度はワイドが寄せます。もちろん中を切りながら。

この時にはDFラインは整っていて、MFも大体戻っています。相手よりも枚数が多く、相手の攻撃を遅らせたと言っていいでしょう。

このように、ネガティブトランジション時にボールホルダーには寄せていくものの、全体としては下がっていきます。無理に前で取り切ろうとはしません。安全第一にリトリート重視といったところです。

また、攻撃時も大きく陣形を変えないことは、ネガティブトランジションへの備えにもなっています。攻撃時に流動性が増せば、ネガティブトランジション時に陣形が迅速に整わないことになるので、片渕監督はそれを嫌っているのかもしれません。いずれにせよ、カウンターをもろに食らって安い失点をすることはないと言えましょう。

※本来の分析のフレームワーク通りならここでセットプレー分析が入るのですが、これ以上やると力尽きそうなのでやめます。気が向いたらやるかもしれません。

6.今期のデータとまとめ

ここまでの分析を簡潔にまとめると、

〇守備

〈プレッシング〉・・・守備的プレッシング(+攻撃的プレッシング)

〈組織的守備〉・・・純粋なゾーンディフェンス(?)

〇ポジティブトランジション

〈ミドル・ロングトランジション〉・・・縦志向が強い

〇攻撃

〈ビルドアップ〉・・・ダイレクトなビルドアップ

〈ポジショナルな攻撃〉・・・ハーフスペース狙い?

〇ネガティブトランジション・・・リトリート重視

となります。

ここからはデータで補足していきます。これらのデータは全てFootball Labさんのアルビレックス新潟シーズンサマリーからの引用です。Football Labさんありがとうございます!これからもよろしくお願いします!

ポゼッションの項で書いたとおり、ボール支配率はリーグ最下位。さらにパス数はリーグ19位。さらにオフサイド数は1位で、裏狙いがはっきり表れています。ポゼッションなんかくそくらえだっ(`・ω・´)

でも意外なのがPA侵入回数。リーグ平均超えてます。ラスト30mへの侵入回数は16位なのに。これはカウンターが多いこと、PA前でゴチャゴチャ繋ぐよりシンプルにPA内に放り込むことが多いからだと思われます。

お次は得点と失点の内訳。5節までで得点は6、失点は4です。アルビは得点パターンが多彩なんだな~

・・・と思ったそこのあなた!騙されてはいけません。今季の得点のうち、PK、セットプレー以外の4点は全てジェフ戦で奪ったものなのです。ジェフはスペースを与えてくれたので戦いやすかったのですが、それ以外の試合では、流れの中から点が取れていないのです。もっと言うと、残りの2点も横浜FC戦なので、5試合中2試合でしか点は取れていません。褒められたものではありません。がんばってくれぃ

そして、失点については、まずまずかなと。セットプレー2発というのが、下の二つになるんですが、どちらもニアで触られて決められているのが気がかりです。アルビはニアに高い選手が構えているはずなんですが… きっちりニアではじく、あるいはしっかりマークに付きたいところです。(ジェフ戦のやつはおそらく大武の手に当たり、それが増嶋に当たってゴールインです)

あと、組織的守備の項で言及していませんでしたが、CB-SB間の距離が開いてしまい、そのハーフスペースを突かれることもしばしば。次の図は横浜FC戦の失点シーン。

左SBが相手のWBにつられてハーフスペースが空き、相手のCFにそこを使われ、入れ替わりでゴール前に入ったシャドーに決められました。お手本のような4バック崩し。対策打たないと再現されちゃうぞ。


長々読んでいただいてありがとうございました。初心者なりにではありますが、できるだけ動画や図で分かりやすくしたつもりです。これで、片渕アルビのサッカーが多少理解してもらえたかなと思います。

現段階の片渕アルビは、昇格を目指すことから考えればやや物足りないです。守備意識は素晴らしく、ブロックもうまく作れていますが、得点の香りがしないのです。カウンターや、ポジショナルな攻撃についてもっと整備する必要はあると思います。

ただ、単純に攻撃に掛ける人数を増やせばいいわけではありません。攻守のバランスを取りながらゲームを進めることこそ大事です。片渕監督は以前「いい攻撃と良い守備は一体」と語っていたので、そのことは心得ていると思います。

「勝ち切ること」が昇格には求められます。どのように得点を奪うのか。「勝ち」をつかみ取るのか。今後の片渕アルビの成長に期待しています。

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