それぞれのプライド |J2第38節 vs栃木SC 2020レビュー

2020シーズン

 

お久しぶりです。SB改造計画とかアルベルト・アルビ英語分析記事の翻訳とか金沢遠征とか諸々やっていたら疲れてしまっていました。1か月もレビュー書いていなかったのかーという気持ち。

その間に監督契約更新とか昇格の可能性がなくなるとか色々ありましたが、まだ今シーズンが残っています。一戦一戦の結果が大きな意味をなさなくなった今だからこそ、来季へ向けて内容に目を向けていこうじゃないか という(今までモチベが上がらなかったという理由を隠すためのもっともらしい)理由でレビュー再開です。あと4戦怪我なく頑張ってほしい。

 

目次

1.マッチレビュー

メンバーはこちら。

新潟はスタメン4人変更。CHに島田が戻り、前節安定しなかった中央のスペースの引き締め役に。前節先発だった小島がメンバー外なのが気がかりな点。昇格の可能性は消えたが、連敗脱出へホームで戦う姿を見せたい。

一方栃木の変更は2人。16試合連続先発フル出場を続けていた柳だが、レンタル契約上出場できず。代わりに17節ぶりに高杉が先発に。連勝の勢いを活かして一桁順位に滑り込みを狙う。

 

①見せつけた栃木スタイル

時間をかけてパスを繋ぎながらゴールへ向かう新潟と、スピーディーにゴールへ迫る栃木。両者のスタイルの違いは序盤から現れる。試合の入りでペースをつかんだのは前線から強烈なプレスをかける栃木だった。

 

GKも含めてビルドアップする新潟に対し、栃木は重心を高くして前線から圧力をかける。最前線の明本がGKのパス方向を限定した瞬間にプレススイッチオン。片方のサイドに封じ込め、前へ前へと寄せてスペースを圧縮。奪いどころを何重にも設定して新潟の前進を阻んだ。

  1. 新潟CBへ栃木SHは外を切りながら寄せて中央誘導
  2. 新潟SBへパスが渡ると栃木SBが前進して寄せ、空いた新潟SHは栃木CHがスライドしてマーク、サイドに逃げさせない
  3. 栃木CHがスライドして空いたスペースはCBが前進してボール奪取

この積極的守備を支えているのが徹底した寄せの素早さ、強度の高さ。相手がボールをコントロールするや否やすぐに間合いを詰め、顔を上げて遠くを見る余裕を与えない。こうして新潟は近くのコースしか見ることができなくなり、同サイド一辺倒な繋ぎに終始。ピッチ上にバランスよくポジショニングする選手たちを活かしきれなかった。

 

守備からリズムをつかんだ栃木は、敵陣でボールを奪った勢いのまま人数をかけゴールへ迫る。特に SB前進守備→そのまま攻撃参加 の形からサイドの厚みを活かした攻撃が目立った。前線の高さがないこと、新潟のCHがボールサイドに吸い寄せられDF-MFラインの間が空き気味だったことから、グラウンダーでライン間を斜めに通す狙いが見られた。クロスも高さ勝負より守備陣の間を縫うボール多めに。

またこの日光っていたのは明本。1トップとしてターゲット役を担い、170㎝ながらマウロ、マイケルのCB陣にも簡単に負けない強さを見せて着実に味方へとボールを繋ぐ。他にも仕掛け、飛び出しといくつものタスクを的確にこなし新潟守備陣の脅威となった。

 

しかし、栃木は序盤に握ったペースを得点には繋げられず。時間経過でプレス強度が弱まるとともに新潟がプレス回避の糸口を見つけ出してゆく。

 

 

②ペースを取り戻した2つの変更

新潟が押し上げるきっかけとしたのは守→攻の切り替えのタイミング。新潟がハーフウェーライン付近まで重心を上げた際、栃木はプレスよりも一旦ブロックを敷いて構える傾向がある。更に栃木はSBが高い位置まで攻撃に絡むため、その背後が空きやすくなっている。

これを利用し、新潟は自陣でボール奪取後に一度SB裏へとボールを運ぶ。こうして栃木が全体を下げ、新潟が重心を押し上げることが可能に。ミドルサード以降では相手が構え気味になるため、ボールホルダーにようやく余裕が生まれた。

 

そしてミドルサードからの局面で狙ったのは相手の間。栃木の人へ寄せる意識の強さを逆手に取り、タテパスの受け手が相手を引き付けながらスペースにいる味方へダイレクトパス。こうして敵陣で前を向く形を増やしていった。

この狙いを強化したのが飲水タイム後のポジションチェンジ。これによりペースを握っていく。

1) 島田の降り方の変化

序盤は島田がCB間に降りていたが、右利きのマイケルが左CBに入るためプレスを受けて窮屈そう。そこで前半飲水タイム後は島田が3バックの左CBの位置に入る。左利きの島田が左に入ったことで左サイドでの安定化を図るとともに、マイケルを中央に解放してタテパス砲台にバージョンアップすることができた。
島田

2) 中島と高木の入れ替え

右SH中島、OH高木の並びだった序盤は中島にパスミスが多く、高木は中央にスペースがなくボールを受けられない状況が続いていた。この両者を入れ替えることで、中島の体の強さを活かしたボールキープを中央で、高木のファジーで捕まえづらいポジショニングを栃木CH付近のスペースで活かすことに成功。


中島

最前線ではFW矢村がDF裏のスペースを狙い続け、栃木DFラインを押し下げさせる。こうしてピッチを広く使いながら前進、ゴール前まで運べるようになった新潟。41分の先制点もまさにピッチを広く使う展開から生まれた(ゴールへ至る展開の解説↓)。

落ち着いて自分たちの形を取り戻した新潟が栃木のプレスをコントロールし、良い流れで後半へ折り返す。

 

 

③スタイルを強化した互いの交代策

リードを許した栃木は後半開始から再びエネルギーを注入、プレスにかかる。ここでギア入れ役となったのが矢野貴章。エスクデロに代わって入ると明本とともに前線からプレッシングを牽引。奪った後はターゲット役として競り、的確なポストプレーで攻撃を繋げる。なんかポストプレー精度過去イチ更新してません?

最前線を矢野に任せたことで、明本はシャドー気味になってさらに存在感を発揮。矢野の背後から飛び出して裏を狙ったかと思えば、下がってドリブルでキープし味方の上がりを促し、フィニッシュ前の場面で幾度となく顔を出した。

 

この勢いを新潟は正面から受けてしまい、ペースはまたしても栃木へ。47分、51分の得点で栃木が一気呵成の逆転に成功。同点弾はサイド深くをえぐった後に下げてからのアーリークロス、逆転弾は左サイドビルドアップのミス誘発と新潟のウィークポイントを的確に突いたもの。栃木が天晴れであり、新潟は気が抜けてしまっていた。

 

その後流れを取り戻しきれない新潟は59分に3枚替え。鄭大世と矢村の2トップになり、幅取り役をSHからSBに変更。前半戦のような形になった。

この変更が吉と出る。新潟の前線4人がより密集する形になったことで、栃木は中央の引き締めを強化。するとSBは前に出て寄せたときのカバーが間に合わない可能性が高まり、新潟SBへ強引に寄せにくく。すると新潟SBは栃木SHが見ることになり、新潟CBに寄せる場面が減少。結果的に前からのプレスがハマりにくくなった。

こうして疲労も加わりプレスの弱まった栃木を新潟が押し込む展開となった終盤。クロスを中心にゴールへ迫っていたが、90分にようやくこじ開けた。この得点も今季の新潟のスタイルを象徴する形から(ゴール解説↓)。

 

両者がスタイルを見せつけ合い、ペースを握り合ったったゲームはドロー決着。消化試合の中でもお互いのプライドが滲み出る一戦となった。

 

 

2.得点解説

ボールを握って相手の出方を窺いポジショニング、相手を動かして逆を取る。今季のエッセンスが詰まった2ゴール。折角なので解説付きで。

1点目 自陣ビルドアップで引き付け、背後を取りゴール前まで

(前半39:50~ ハイライト動画に映る手前のシーン)

マイケルからGK藤田経由で田上へ展開。マウロへのバックパスに合わせて栃木の意識が前にグッと向いたところでタテパスを入れ、相手の逆を取る。DF-MF間で受けた中島がドリブルで持ち運ぶことで全体を押し上げ、ゴール前まで。(この後ハイライト動画0:28~の矢村のクロスシーンに繋がる)

 

2点目 的確なポジショニング、相手を動かしてゴールへの道筋を作る

栃木FWのプレスが弱いと見るやマイケルがドリブルで持ち上がり、栃木CHを釘付けに。この間にCHの視野外から本間、高木がDF-MF間のスペースに入り込む。マイケルのタテパスから本間経由で受けた高木がライン間でターン。これでCBが食いつく。その背後を矢村が突き、こぼれ球をシルビーニョが詰めてゲット。

前半戦の栃木戦ではプレスを上手く掻い潜れず、チャンスをまともに作れなかった。それを考えればこのチームの成長が感じられるゲームとなった。このスタイルの積み上げで来期は更なるパワーアップに期待したい。

 

 

3.試合結果

新潟 2-2 栃木

得点者 新潟 41′ 中島 元彦、90′ シルビーニョ
得点者 栃木 47′ 矢野 貴章、51′ 森 俊貴

詳細なデータはJリーグ公式サイトFootball Labへ。

 

 

4.雑感

新潟が栃木のプレスをうまくコントロールしていた時間も多くあった中で、後半最初の時間帯は完全に飲まれてしまった。栃木のガンガンプレスをかけるスタイルでは、前後半の開始直後こそ仕掛け時なはず。それをもろに食らってしまうあたりはまだまだ鍛錬が必要なのだろう。

監督もこのコメント。

後半、われわれは最悪のスタートを切ってしまった。フィジカルコンディションが良くないこともあり、集中力も切れてしまい、良いスタートが切れていなかった。選手たちにも話したが、疲れているときこそ、われわれはもっと賢くプレーしないといけないが、それができていなかった時間帯だった。

― アルベルト監督 ―

監督はこの他にも何度かフィジカルコンディションに言及していて、かなり前から限界のところまで来ているはず。そんな時にこそ、もう一瞬だけ相手を引き付けてパスの受け手を楽にすること、周囲を見て味方を助けるポジショニングをすることなど、頭を回してプレーに関わり続けることが重要となる。

 

その意味で言えば、同点弾は「賢い」プレーの連続から生まれた得点に違いない。前に放り込んで後は任せた!とするのではなく、相手が嫌がるプレーは何か? どうすればゴール前のスペースを生み出し、使えるか? と頭を回し続けた結果が綺麗な崩しに繋がっている。この意識を90分間途切れさせなけないようにすれば、もっと「賢い」チームになれるはず。

 

最後に矢村健について。FWとして悔しいはずのノーゴール。コントロールミスからロストするなど勿体ない場面もあった。しかし、確かに相手の脅威になっていた。栃木CB高杉のコメントから。

-監督からは「最終ラインが少し重くなりすぎた」と話がありましたが、どんなことを感じながら試合に臨んでいましたか

前半から僕自身もラインが低いことを感じていたので、うまく修正できなかったところはあります。相手が速い選手を前に置いてきたところで受け身になってしまって、ラインが下がってしまったと思うので、どちらかといえば自分たちはパスを出させない守備なので、パスを出させないようにラインを上げてコンパクトにしてボールホルダーにプレッシャーをかけられればもっと良かったのかなと思います。

― 4 高杉 亮太 ―

2得点とも、相手の中盤が間延びしたスペースを使ってチームはボールを前進している。矢村が背後を狙い続けたからこそDFラインが下がり、間延びさせることができたのだ。ボールに触る機会は少なくとも、チームへの貢献は確かにあった。フォアザチームのFWの元には必ず好機が訪れるはず。残り4試合、“キング”の働きに注目したい。

 

 

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