10戦0勝5分5敗。
新潟の対ヴェルディ戦の成績。そしてこの試合の結果、引き分けに1上乗せした。初対戦から17年経っても勝てずじまいになってしまった。スペインの風もどうやらヴェルディのDNAには勝てないらしい。そのDNAをもっと別のところで発揮してほしいのですが…
次こそは、必ず。
1.マッチレビュー
スタメンはこちら。
ヴェルディは前節と全く同じメンバー。調子を掴みつつある中、このタイミングでの主将藤本の移籍報道。この試合でも効いていただけに痛手か。主力が、キャプテンが移籍することを何度も経験している我々アルビサポも気持ちはよーくわかります。え、今年はさすがにないよね…?ね??
新潟は中島が初先発。さらに田上が右SBで、ロメロがトップ下での初起用。ポリバレントな選手たちの特性を生かし、ヴェルディ対策を施してきた。
①各々のファーストプラン
ヴェルディは昨季からの継続でとにかくボールを握って繋ぐスタイル、今季の新潟もボールを大事にするスタイルということでボールの握り合いになるか?とも思われていたこの試合。しかし、新潟は自分たちの理想に拘泥せず、時にはボールを手放しても構わないという一面も持つ。
というわけで、ボールを握るヴェルディvsブロックを構えて絡め捕りに行く新潟の構図が序盤から鮮明に。
ヴェルディは前線で幅を取ってのビルドアップ。左右で選手たちの関係性が異なっていた。
左サイド:流動的
WG井上が中へ外へと顔を出しIH井出がそれに呼応するように自由に動きまわる。SB奈良輪も積極的に上がり、WGのように振る舞う場面も。
右サイド:固定的
WG藤本は大外担当で、高い位置で新潟の左SBを釘づけにしたり、少し下がってサイドからパス出しの起点になったり。SB若狭がその内側をガンガン上がっていく。IH佐藤は自由気味。
このようにしてCBから繋いでいくヴェルディに対し、新潟は4-2-3-1のブロックを作り対抗。この時のポイントは二つ。
- SHが外(SB、WG)へのパスコースを切りつつ寄せる
→中央に誘導する
- ボランチ、トップ下が相手のMF3人をマンマーク
→IHに出されたパスを刈り取る
このようにして中央にボールを誘い込み、ボランチ二人が前向きに奪ってカウンター!がメインプランであった。実際、開始早々から狙い定めた形からボール奪取しており、特に右ボランチのゴンサロの奪取力が光っていた。
しかし、うまくハマらない場面も。SHがヴェルディのCBへプレスをかけるも外へのパスコースを切り切れない、タイミングが合わず味方が連動してプレスをかけられないことが多かった。特にユース時代から計11年をヴェルディで過ごした右SH高木はこの試合でキャプテンマークを任されたこともあり気合十二分。有り余る気合が空回ってしまい、ズレが生じたところをヴェルディに突かれてしまっていた。
また、コンパクト&ハイラインを保とうとする新潟に対し、ヴェルディはサイドチェンジで揺さぶりをかける。
中盤やCB経由のサイドチェンジに対して新潟のブロックがスライドした時、DFの背後への警戒が薄れる、その一瞬を狙って裏への飛び出しを仕掛けていた。特にCF端戸や左WG井上が裏を狙っており、右WGの藤本から放たれる精度の高いパスも効いていた。
時間を追うごとにヴェルディが振り回す展開となった序盤戦。オフサイドやフィニッシュ精度不足にも助けられ、新潟は何とか水際で防ぐ形に。
②「持たざる」新潟の狙う一刺し
一方、新潟が狙い通りにボランチのところでボールを奪う場面は何度か見られた。奪った先の展開を見ていきたい。
ヴェルディはボールを奪われるやいなやプレススタート。マンツーマン気味で人をつかまえて圧力をかけ、即時奪回を狙う。
これに対し新潟はプレス網にかかる前に素早く前進を図る。その旗手となったのは前線の渡邉新太&ロメロフランク。推進力のある彼らに素早くボールを預け、手薄になりがちなヴェルディの最終ラインを脅かした。ただ、急ぐがあまり雑なボールも増え、新潟の攻撃ターンがすぐに終了してしまうことも多かった。
後ろで余裕ができた際にはショートパスを用いてのビルドアップも。中心となっていたのはこの日初先発のボランチ中島。ヴェルディの2トップの間に立ってCBからパスを引き出しターン、ボールを持ち運んで前にパスを繋ぐ仕事を的確にこなした。チームメイトも信頼してボールを預けているようで、すでにチームに馴染んでいる様子が伺えた。
しかし、相手陣に入ってからは少し攻め手を欠いた感も。ヴェルディのブロックはコンパクトに整理されており、新潟はブロック内の選手がうまくボールを引き出せず。となればブロック外からの攻めが主体に。前節同様右SBと左SHが大外にポジションを取って揺さぶりを図ったが、この日の右SB田上は本職がCBのためあまり仕掛けが得意ではない。左SHの本間もこの日はかなり警戒されており、サイドでもあまり時間が作れず。
となると攻め手はセットプレーくらいのものに。新潟はFK、CKだけでなく、両SBがロングスローを投げられることを活かし「ロングスローはセットプレー」を標語にCBもゴール前へ。これが後々ゴールに繋がっt…あっゴールはまだ…ゴールって言っちゃったね。まあ後々ゴールに繋がるのです。
そんなわけで全体としてヴェルディが試合をコントロール。そして両チームが互いに変化を加える駆け引きのゲームへと進んでいく。
③駆け引きのシーソーゲーム
サイドチェンジでなぶられてしまった新潟は修正タイム給水タイム後にサイドチェンジ対応を強化。
- FWのCBへの寄せを強める
→サイドチェンジを簡単にさせない
- サイドチェンジが相手WGに渡る瞬間にSBが強く寄せる
→サイドチェンジ後に自由にプレーさせない
→
この修正でサイドチェンジの効果減を狙った。実際、ヴェルディのサイドチェンジの数は変更前後で減少。サイドチェンジ後にフリーでボールを持たせる場面もなくなり、うまく効いていたといえる。
一方のヴェルディも徐々に変化。外が使えないならばと中を突く作戦に。この時にポイントとなったのがIH。新潟ボランチがぴたりとマンマークしてくることを逆手に取り、IHがボランチのように下がってパスを受ける。これに対し新潟のボランチが前に出ていき、CB前のスペースが空くように。ここでCFや中に入ってきたWGにタテパスを差し込むことで前進し、チャンスを作り出した。
特に新潟の右ボランチゴンサロは人についていく傾向が強く、ヴェルディの左IH井出が低い位置に降りてゴンサロを釣り出す場面は多かった。42分、44分の端戸のシュートに繋がったシーンは象徴的。
こうして、外がダメなら中!と狙いを変えていったヴェルディ。後半の選手交代で更なる変化を加える。
55分、ヴェルディは藤本→小池、端戸→山下の交代で快速コンビを両翼に投入。前半から攻勢を受け疲弊した新潟最終ラインをさらになぶりにいく。
この時にポイントとなったのは新潟の右サイドのユニット。CBマウロ、SB田上、ボランチゴンサロはみな対人戦に強みがあるタイプで、その分スペースの管理は得意でない。
前半からゴンサロは釣り出されてスペースを使われていたが、この時狙われたのはSBの背後。ヴェルディの左WG山下はSB田上を釣り出してから快足を飛ばして背後を突く場面は何度も見られた。新潟としてはCBマウロがファウルすれすれで止めるなどギリギリの対応。ゴール前をグラウンダークロスが横切る場面も何度かあり、先制のCKもこの形から生まれたものだった。
しかし、ヴェルディが盤石に試合を進めていたかというとそうでもない。新潟のプレスを受けてカウンターを仕掛けられる場面は何度か。新潟はファビオ、シルビーニョを投入しカウンターの迫力を強めたことで決定機を作り、62分にはファビオがワンタッチで合わせるだけのシーンも創出。しかしGKマテウスが立ちはだかる。
また、高いDFラインの裏を突く狙いはより明確に。ファビオがポスト役となることで渡邉新太は裏抜けに特化。幾度となくDFの背後へスルーパスを呼び込むが、ヴェルディは危うくも華麗なラインコントロールでオフサイドの罠にかけ続ける。GKのマテウスもゴールマウスから飛び出して裏へのボールを処理し続けた。
ただ、ラストプレーで渡邉新太の前にボールがこぼれてきたのは、愚直にゴールを狙い続けたからこそ。諦めずに「その時」を待ち続けた者にこそご褒美が与えられるのだ。
結果的には双方セットプレーから1点ずつ取り合って終幕。両者の狙いのはっきり出た濃いゲームとなった。
2.試合結果
東京V 1-1 新潟
得点者 東京V 79′ 高橋 祥平
得点者 新潟 90+3′ 渡邉 新太
詳細なデータはJリーグ公式サイト、Football Labへ。
3.まとめ
得点はセットプレーからのみのドローであったが、両者狙いとする形からゴール目前まで迫っており、エキサイティングなゲームとなった。
アルベルト監督も手応えを感じていた模様。試合後コメントから。
攻撃的なチーム同士の対戦だったが、決定的なチャンスの数ではわれわれのほうが上回っていた。東京Vは素晴らしいサッカーをしていると聞いていたし、実際にそういうプレーをしていた。一方で、われわれも彼らの長所が出ないよう、うまく守備ができた時間も長かった。
(略)今回の試合において、守備のミスはなかった。攻撃のチャンスを決め切れなかったことが課題として残ったと思う。
ヴェルディの選手も新潟の守備に対するやりにくさを感じていたようで。
相手がウチをすごく研究したのか分からないけど、(プレスの)ハメ方も相当にうまかったし、パスを出すところが本当に少なかった。
今回の試合では、選手個々の守備エラーはあったにせよ、組織戦術の、チームのやり方という意味ではうまくハマっていたと言える。相手に合わせやり方を調整する今季の新潟のスタイルが改めて裏付けられることとなった。
気になったこと集。
- 4バック起用
この試合では再三ブロックを左右に揺さぶられ、DFの背後を突かれる場面は何度も見られた。しかし、頑として5バックにはしなかった。甲府戦のように5バックで重心が下がることで押し込まれ続けることを嫌ったのか、多少の授業料を払ってでもボールを持ちたがる相手に強気で戦う術を植え付けようとしたのか…攻撃的なデイフェンスの一端が見られたという点で面白いゲームにはなった。
右サイド後方のユニットをマウロ、田上、ゴンサロにしたのも興味深かった。対人に強い選手たちを集めたことでボールの奪い所ともなっていたが、同時に背後を突かれウィークポイントともなった。また、ビルドアップの得意な選手たちではないため、近場近場でのパスが多めに。どれだけ注文通りにプレーできていたかは窺い知れないが、両サイドでバランスを取っての起用が多い中で、サイドのユニットの関係性は今後も注目。
- カウンター
この試合ではボールを誘い込み、奪う場所が明確に決まっていた。それによってカウンターへの移行がスムーズとなり、勢いを持って何度もゴール前まで迫ることができた。
ここまでの試合では奪った後になかなか加速できない場面もあったが、この日はボールを「持たざる」なりに脅威を与えられていたと感じる。ここまで対戦のない西のチームにはボール持ちたがりが数多くいることから、これを自信とし、フィニッシュ時の連携と精度を高めていきたい。
- 初スタメン中島
合流2戦目にしての先発起用は信頼の証。この試合では早速パス回しにおける重要な役割を担い、CBからパスを受けてサイドに展開、自分で持ち運んでタテパスを入れるなど効いていた。特に彼はターンが素早く、パス回しが後ろ向きになりすぎないのでかなり助かっていた。これがJ1で控えにも入れなかった選手と思うと、J1は遠くなりにけり…とも思えてしまう虚しさよ
後半にSHに入ってからは存在感が薄れたものの、単騎でプレスをかけてボールをかっさらい決定機に繋げた場面や、ファビオとの連携で中央に侵入した場面も。ボランチ、SHの選択肢が増えたという点で、ローテーションを基本とするこのチームにとっては大きな補強と言える。今後他の選手との組み合わせや相性を、混迷している「中島なんて呼ぶか問題」とともに模索していきたい。
ここ3試合は2失点とようやく落ち着きを取り戻してきた。逆にもう1点が欲しい展開も増加。守備の安定を得た後は再びの攻撃陣の爆発が見たくなるもの。次の相手となる栃木も難敵だが、そろそろケチャドバを期待したい。