前書きのネタないかなーなんてぼんやり考えていたところ、去年のビッグスワンでの山形との試合が片渕監督の最後の指揮だったことを思い出した。そういえばあの時AT同点弾を決めたのは凌磨だったっけ。今でも予測変換で「凌磨」の字がちゃんと出てくるのが複雑…
この試合のメンバーを見てみると、ベンチ入りも合わせた18人のうち今年もメンバー入りしたのは4人だけ。11人は今はもういない。あの頃は失点も少ないが貧打で泣いていた。今は点は取れるが失うものも多い…まさに隔世の感。
まあね、失うものばかり数えても意味がないのでね。得点が多いことを素直に喜んで、手に入れたものを大事にしていきましょう。
ところで、最近手に入れた「失点に対する危機感のなさ」はどこに捨てればよいのでしょうか?意外と日持ちしていて処遇に困ってます…
1.マッチレビュー
スタメンはこちら。
新潟は前節に続き4人の変更。高木は開幕戦以来の先発となった。スタメンとフォーメーションを毎試合変化させて相手とメディアを裏切り続けているが、ベンチ入りを含めた18人のメンバーは固まってきた模様。
一方の山形も5人の変更。再開直後の勝利から3試合勝ちなしだけに、悪い流れを断ち切る狙いか。渡邊凌磨はベンチスタート。
①守れているようで守れてない?
立ち上がりは互いに慎重だったのか、無理には繋がずアバウトに蹴りあう展開に。時間が経って落ち着いてくると、互いに繋ぐ狙いを見せていく。
山形のビルドアップでカギを握るのはボランチ。技術の高い2人がDFからボールを引き出し、展開したり中央でパス交換したりしてリズムを作っていく。
これに対して新潟はボランチに簡単にボールを渡さないようにプレスをかける。左右のCBにボールが渡ると、
- 2トップの内一人:逆サイドへのパスコースを遮断しながらプレス
- もう一人:中央に立ってボランチへのパスコースを遮断
- ボールサイドのボランチ:ボランチをマークし自由にさせない
こうなると山形はボランチを経由するのが難しく。しかし抜け道はある。新潟はボランチの一人がマンマーク気味な分、ボランチ脇のスペース管理は甘くなる。よってこのスペースでシャドーがパスを受ける。
また、スピードのある右WB半田をSB裏に走らせて強引な突破も図った。
ボランチを使わせないことに成功しつつも、力押しで前進される結果となった新潟。山形のボランチが縦関係になる等はめられないような動きをしたこともあり、完璧に抑えることはできず。
その後の自陣守備では問題発生。サイド奥まで侵入された際、MFも下がりすぎになってしまい、FWもサイドの選手を気にして下がってしまうため中央にぽっかりとスペースが空いてしまったのだ。このスペースへのパスコースを遮断することができず、中央に待ち構えるボランチ経由で右CB熊本にフリーで攻撃参加を許すことに。失点場面はこの形から生まれ、16分にもこの形からシュートを打たれている。
この場面に限らず、新潟は守備時に一度ラインを下げた後に上げる意識が弱いように感じる。山形はボールを下げると比較的余裕があり、そのタイミングでマークを外して裏へ!という場面は何度か見られた。コンパクトにラインを高く保つ意識が持てていないことが失点の多さに繋がっているのかもしれない。
山形も事前にそれがわかっていたようで。
相手のスカウティングでも、バイタルが空いたり、ディフェンスラインのルーズなマーキングというのを上手く突いていきたいという話はしていたので、(後略)
失点減への道は簡単ではなさそうな…
②打ち崩せないコンパクトウォール
山形以上にボールをつなぐ意志を見せる新潟。SHを絞らせSBを上げる形でビルドアップするが、なかなかDFから前線へパスを届けられない。これには山形の守備のやり方が大きく関係していた。
新潟のCBがボールを持った際、シャドーの選手がまずプレス。それに呼応してFW、WBもCB、SBへ圧力をかけ、簡単にはパスを出させない。
そしてポイントとなるのがボランチのポジショニング。両ボランチがプレッシャーをかける前線の選手の間にポジショニングし、間を通すパスコースをシャットアウト。これにより出しどころを潰してしまい、前線のプレスと合わせてミスを誘ってボールを取り上げる作戦。
新潟はこれに苦しみ、仕方なくCB→SBに繋ぐもサイドに追い込まれてボールを失ってしまった。なかなか前向きのパスを出せずもどかしい展開に。しかし、山形の陣形はボールサイド寄り。そこで、新潟は逆サイドに活路を見出す。
SBやCBからGKも経由し逆SBへサイドチェンジ。これにより山形の守備網を抜け、少し余裕を得られるように。11分のシーンでは左サイドから繋いで右SB新井に展開、そこから一気に左サイド奥でフリーのロメロへと繋がった。シュートまでは至れずとも、プレス回避の一つの解決策を示した。
しかし、これに対して山形は気合の鬼スライドで対応。新潟のパススピードが上がり切らなかったこと、逆サイドへ展開した後の前線の動き出しが遅かったこともあり、何とか対応できる場面もあった。
そこで新潟は前半のうちに変化を加える。SHのロメロと高木をポジションチェンジ。そしてボランチの秋山が少し高い位置取りをする代わりに、高木が下がって受ける場面が増加。これによりボールを持つことの多い左CBマイケルがパスを出しやすくなり、高木につられて動いたシャドーの背後で秋山がパスを受ける機会も増加。中央経由での逆サイド展開も多くなった。
序盤は前線のプレスを引き付けるように低めの位置にいた秋山が少し上がることで全体の重心も上がり、徐々に敵陣に入ることができるように。しかし、SBがボールを持った際の選択肢が少なく、裏への動きも少なかったことで敵陣攻撃に深みは出せず。
また、秋山、高木が自由に動き回ることで陣形のバランスが崩れ、カウンター時にフリーでロングボールを蹴らせてしまう場面がちらほら。カウンターで追い込むサイドが定まらずスピードアップを許してしまい、差し引きゼロという形になってしまった。
③サイドで釘付けにしたけれど…
煮え切らなかった前半を終え、後半開始から新潟は動く。本間至恩を左SHに投入。彼が左サイドで仕掛けることで対面の右WB末吉はズルズルと下がり、山形の右サイドを押し込めることに成功。
さらに62分には大本を右SBに投入し、右からの仕掛けも増やす。これで左サイドも押し込めるように。彼のファーストプレーとなるクロスで同点に追いつく。
山形は左右のWBが仕掛けるマンによって押し下げられてしまい、その分前線の選手が守備時に担当するスペースが増加。疲労も重なってプレスをかけづらくなり、全体が重くなるように。
そんな山形を一層疲れさせるように新潟は前半よりもピッチを広く使ってパスを回す。59分のファビオのヘディングシュートにつながるシーンは、GK藤田のパスを起点に右→左と展開しクロスを入れる、ピッチ全体を使う見事な攻撃だった。
しかし、試合が進むにつれ新潟は山形のブロック外での回しに終始するように。サイドの選手は交代したばかりで活き活きしているものの、FWの選手は疲れからか最前線にとどまり動かなくなってしまい、ボランチもお疲れ模様で前に顔を出せず、タイミングも合わず。次第にサイドが孤立し、右サイドで大本が縦に仕掛けてクロスを入れる他なくなってしまった。
山形は疲れもあってか中央を固めてからのカウンターが増え、それを新潟は制御しきれず危うい場面も。終盤にファウルが増えて雑な展開になったところで試合終了。連戦の疲れが色濃く出た幕切れとなった。
2.試合結果
新潟 1-1 山形
得点者 新潟 62′ ファビオ
得点者 山形 42′ 大槻 周平
詳細なデータはJリーグ公式サイト、Football Labへ。
ハイライト動画はこちら。
3.まとめ
山形としてはまずまず、新潟としては消化不良といった印象の試合だった。山形はよく組織されており、なかなか大きな穴を見せてくれなかった。それに加え、パススピードや球際、プレスバックなどのプレー強度は低かった。これについては監督、選手ともにインタビューで言及している。
今まで6節プレーしてきたが、最もプレーの質が低い試合だった。連戦の疲労もあってか、プレースピード、パススピードが足りない時間が多かった。
--前半、山形の守備に苦戦していた。
そのとおりです。われわれのプレースピードが遅かったのも影響し、なかなか打開できなかった。(中略)われわれが求めるプレーをするためには、パススピード、プレースピードが必要。それがなくなると、普通のチームに成り下がってしまう。―アルベルト監督―
--山形の守備はどう感じたか。
3バックの相手で、まとまっていた印象です。われわれはもっとボールを速く動かさなければ、穴は開かないと思いました。― 9 ファビオ ―
今季初の連戦が一区切りとはいえ、この後は更なる地獄の連戦が待っているわけで。コンディショニングも含め、どうやって高いプレー強度を保つかが相当重要になる。勝ち点1を授業代として今後に活かせるか否かが問われる。
- テンポの変化
前半は特にパスを回すことに終始し、仕掛けやタメを作る場面が少なかった。後半に至恩や大本が仕掛けたことでようやくテンポに変化が出たが、そこで作った時間やスペースをブロック内の選手にうまく届けられたとは言い難い。
また、攻撃中に「やり直す」場面も少なかったと感じる。サイドでボールを持った時に確率が低いのに裏に蹴ったり、サイドの奥深くまで進んだらクロスの選択肢しかなかったり。
「緩」「急」がなければ守備のズレを生み出すことはできない。前線にボールが入ったらパス、パス…の一定のリズムでなく、意図的にテンポを下げる、長短のパスを織り交ぜることができるとより効果的になるはず。個人の技量に関わるので難しい部分ではあるが、至恩が中で受ける場面を作るなど、少し変化を加えてもよかったのではないか。単調な攻撃で終わらせないために工夫していきたいところ。
- バランスと準備
この試合はピッチ上のいろいろな場面でバランスを失っていた印象が強い。
- 攻撃時にSHが動きすぎて、相手がボールを奪ってCB、WBに繋いだ際に完全にフリーとなり、大きく展開してカウンターを許す
- GK経由でサイドチェンジしSBにボールが渡っても、前線の動きが一歩遅れてせっかくのスペースを使えない
- 後半、サイドで仕掛ける選手に対して近くの味方が動けておらず、孤立する
このチームは「バランス」を相当意識してやってきたチームのはず。これまでの試合でも下手なカウンターは受けず、うまく時間をかけて遅らせることはできていた。しかし、この試合では雑になってしまう場面が多かった。
パスを繋ぎ、ピッチを広く使って攻めるにはバランスよくポジショニングすることは必須事項。各選手に得意なエリアがあるのはもちろんだが、チームとして戦う以上、自分のやりたいことばかりに注力してはいけない。まして自陣守備が盤石でない以上、簡単に自陣に持ち込まれないように攻撃中から奪われた時のために準備することが重要となる。選手の組み合わせを加味しつつ、バランスを失わないようにしていきたい。
勝ち点1を拾えているのは幸い。必ず1点は取れるチームだ。
しかし、攻撃陣が頑張っているんだから守備陣も頑張れ、というのは違う。攻撃は11人で作るものであり、守備もまた然り。守備が悪いから守備的に!ではなく、攻守のバランスを保ちながら改善することこそが肝要だ。少し時間はかかるかもしれないけれど、チームの原点を見失わないよう戦っていってほしい。