立ち上がりから背後へのボールとハイプレスを仕掛けた新潟が攻守に主導権を握り、マリノスを自陣に釘付けにする。これによりブロックの手前でスペースと時間を十分に得た橋本は背後にライン間に鋭くボールを届けてチャンスを演出。26分、まさにこの形からDFの背後に抜け出した太田が見事なコントロールからゴールに流し込んで新潟が先制。マリノスは井上の位置を上げて反撃を試みるも、選手間の連携が少なくチャンスに繋げられず。シュート0で45分を終える。
後半も変わらぬ勢いで押し込む新潟の前にチャンスを作れないマリノスだったが、新潟の波状攻撃を朴一圭の連続セーブで凌ぐと、選手交代と4-2-3-1への変更で積極性を取り戻し、CKの流れからPKゲット。アンデルソンロペスが沈めて77分に試合は再びイーブンに。最後は両ゴール前での応酬が続くもこのままタイムアップ。新体制でのリーグ戦初勝利は両者お預けとなった。
メンバー

試合結果
2025/02/15
J1第1節@日産スタジアム
横浜F・マリノス 1-1 アルビレックス新潟
得点者
横浜FM 77′ アンデルソン ロペス
新潟 26′ 太田 修介
レビュー
背後へのランニングを効果的にした配置の妙
前半はほぼ一方的な試合を展開した新潟。ハイプレスでマリノスからボールを取り上げたのはもちろん、保持でのポジショニングも効いていた。
マリノスは5-3-2の陣形でスタートして前2枚がパスコースを限定する役割だが、これに対して新潟はCHの1人が2枚の間から顔を見せることで数的優位を形成。加えてSHが外に開いて立つことで、WBがプレスに出てこれないようにピン止めをしていた。
その結果後方で時間を得たCBとSBは余裕を持って前の様子を窺い、鋭いフィードでマリノス守備陣に脅威を与え続けた。この日は特にマイケル、稲村、橋本とフィードを送れる3枚を後方部隊に置いたため、前線も迷いなくボールを呼び込んでいた。先制点もまさにこの橋本→太田ラインから。相手DFを寄せ付けずに1本のパスで仕留め切った。
またラスト30mで効いていたのも橋本。彼と大外レーンで相対するのはRWB井上だが、LSH奥村がRCB松原の手前や脇のスペースへアクションを繰り返し、長谷川や谷口も頻繁に左に流れてきたため、井上は背後のケアを優先。IH渡辺が対応する形になっていた。
こうして余裕を得た橋本のチョイスは2通り。渡辺が寄せてこなければ外から巻いて落ちるクロス、寄せてきたらば渡辺の背中のスペースで長谷川や星と待ち合わせ。後者のチョイスからは12分の3 on lineの形で谷口の落としを受けた長谷川が抜け出すシーンや、33分のファーに抜けたクロスを太田が左足で叩くシュートチャンスが生まれた。斜めからマリノスのブロックを切り崩す橋本は紛れもないチャンスメイカーだった。
5-3-2でスタートしたマリノスもジャンが宮本・星を捕まえに前に出て来るなど少しずつアジャストを試みていたものの流れは変わらず。33分の太田のシュートの直後にさらに変更し、井上を一つ高い位置に出して橋本に圧力をかける形にシフトした。この4-4-2気味への変更を機にマイボールの時間が長くなったが、井上の突破を軸にした攻撃はやや単発気味。
マリノスはHT明けによりはっきりと4-4-2にしたが、奥村が左サイド奥を突くランニングを増やしたこともあってこの変更は結果的にややむしろマイナスに働いてしまい、状況の好転は選手交代まで待つこととなった。
明確になった守備の基準
新たなアルビは守備の基準が明確だった。攻→守ではまずボールホルダーを抑えること。ホルダーが次に移ったらスプリントしてでも相手に寄せること。ただ漫然と寄せるのではなく、パスコースを消しながら、相手に手が届く距離まで寄せることを意識しているようにも見えた。相手が後ろから繋ぐ際には、まず全体のコンパクトさを整え、1stDFがスタートを切ったのを合図にグッと一塊になって追い込んでいく。
ボールを網目にかけるような守備を実現するためには最終ラインも勇気を持って上げる必要がある。これは背後のスペースを空けるためリスクも高いが、前線がしっかりプレッシャーをかけてボールホルダーの選択肢を削れば、後ろは無理なく先のプレーを読んで潰すことができる。84:49~のシーンではアンデルソンロペスが浮き玉パスをコントロールした瞬間にマイケル&新井でサンドして奪い切った。前線4枚の頑張りこそが守備陣を助け、より前でボールを回収できるようになり、回り回って攻めのターンを増やすことに繋がる。この日は何度もそんなシーンを見せていた。
一方でマリノスの得点直前のCKに至る流れは新潟からするとうまく前進された場面だった。マリノスは天野ら3枚を投入したタイミングで2トップから1トップ+トップ下に変更したが、これにより”縦の段差”が生まれた。73:05~のシーンでは新潟CHの手前にトップ下天野が下りたことで縦パスを引き取ることに成功し、落としを受けた渡辺が一気に宮市に展開してボールを前へ運んだ。前線が疲れてプレッシャーが弱まった影響も大きかったが、相手の変更に対応しきれず、閉じ込めたい中央のエリアで前進されてしまったのは反省点。PK自体も球際への強い意識が裏目に出たファールでありエラーが重なった悔しい失点となったが、4-2-3-1で戦う次節の清水に向けた演習ができたと捉えたい。
あとがき
キックオフから新しいスタイルを前面に押し出していく選手たちの姿にワクワクさせられたのは私だけではないだろう。この日の樹森アルビはそれだけチームとしての狙いが明確だったし、その狙いを体現できていた。かつてアルベルは「攻撃は守備でもある」と言っていたが、それになぞらえれば「守備も攻撃へ、攻撃をよりゴールへのアタックへ」というイメージだろうか。
もう一つ目についたこととして、保持の際のパスルートの変化がある。昨年までCHのタッチ数が多かったが、この日はCHの関与が少なく、CBとSBが保持における中心となっていた。またサイドや背後へのフィードが目に見えて増えた分、昨季までのような中央を刺すタテパスは明らかに減った。出し手はまずルックアップして遠くを見るし、受け手も手前よりも背後へのアクションを強く意識。何より背後へのボールがミスになることを恐れていない雰囲気だった。
サイドの背後へ送り込むボール、これはGKに取られにくいし、味方に繋がったらもちろん嬉しい。もし相手ボールになっても、そのままプレスに移行すれば一斉に前向きで圧をかけることができる。真ん中をタテパスで綺麗に通そうとするよりも、少しラフでも狙ったスペースにボールと人を送り込む方が意思統一させやすいというやつだ。去年の好調時のヴェルディは得意としていたし、やや極端だが秋田も似たような思想を持っている。背後ばかりになると単調にはなるが、それだけ全員の矢印を揃えやすくもなるわけだ。
後半に一気に前へ飛ばすボールが増えたのも、相手の圧力を感じて焦った、というよりはマリノスが4バックになって背後の見通しが良くなったから出せてしまった、というように見えた。現体制最初のトレーニングマッチ金沢戦で「スピードを上げすぎた」という声があったが、時間差で腹落ちするような感覚があった。新チームの初戦ゆえに、キャンプで意識してきたことが強めに出てしまったのかもしれない。それでも樹森監督の求めるプレーをチームとして表現できていたという意味ではポジティブだし、松橋体制では最初の1ヶ月で徐々にバランスが取れるようになったように、ペースをコントロールする感覚は試合を重ねていくことで掴めてくるだろう。その意味で、今季のチームにとって基準を示した1戦になったと言える。
ここから気になるのは、この日いなかったメンバーがどのようにこのフットボールに加わっていくのか。この日星に代わって入った新井は、低めの位置で短めのパス交換をしてリズムを作る作業をしていた。これが例えばもっとパスを散らせる秋山に替わったら、あるいはダニーロやミゲル、小野ら強みの異なるアタッカーが出たら。得意も好みも異なる選手がピッチに立った時にどんなプレーをしてくれるのか。多くのメンバーが試合に絡むほどチーム力の厚みが増してくるし、それでも変わらない部分が樹森アルビの“らしさ”として見えてくるはずだ。
結果こそ足りなかったが、新人監督、新チームという不安が付きまとう中で内外を納得させるに足るゲームを披露したことは間違いない。これをベースにどのような進化を遂げていくのか。進化の行く末を楽しみに見ていきたい。