前節ボール持ちたがりのヴェルディと対戦し、今節はボール放棄、ボール狩りまくりの栃木というJ2で最も振れ幅の大きい連戦に挑んだ新潟。この2試合によって新潟の多面性がくっきりと表れたわけだが、ヴェルディ戦では頭の疲労が、栃木戦では肉体の疲労が大きかったと思われるので、どうかどうかしっかり休んでいただきたい。
ここから5連戦×6セットという魔境of魔境に突っ込んでいくJ2。Jクラブ関係者にも某ウイルスの陽性者が増えてきたので、どうかどうかご自愛いただきたい。試合に一喜一憂できる喜びを噛み締めながら。
1.マッチレビュー
スタメンはこちら。
栃木はスタメン4人変更。消耗の激しい戦いを選んでいる中、ベストに近いメンバーを送り出してきた。新潟からレンタル中の柳は契約上出場できず。
一方のアウェイ新潟も4人変更。ボランチを務めることの多い秋山、中島がSHに入り、4-2-2-2のような格好に。ここまで全試合出場していたファビオが前節負傷し、どう埋めるのか?が焦点に。
①青写真は青写真のままで
いかなる相手でもとにかく倒れるまでプレス!が信条の栃木。それに対し新潟は相手の出方で対応変えるよ!なチーム。特にはっきりした戦いをしてくるチームへは入念に対策しがち。
というわけで新潟は前線4枚で激烈にプレスをかける栃木対策を敢行。
ポイントはSH。秋山、中島がかなり内寄りのポジションを取り、ほとんどトップ下に近い形に。監督も試合後にトップ下と明言。
--先発で秋山 裕紀をサイドハーフに起用した意図は?
先ほどもお伝えしたとおり、スタートから試合をボールとともに支配する意図で、あそこに置きました。裕紀にしろ、モト(中島 元彦)にしろ、彼ら質の高い選手をトップ下に置いて、ボールとプレーを支配したいと思いました。
新潟の描いた青写真は次の通り。
- 新潟が最終ラインで繋ぐ
- 栃木が猛烈にプレスをかける
- プレスの背後、ボランチ周りのスペースで新潟の前線4枚がパスを受ける
- 前を向いてスピードアップしゴールへ
プレスを敢えてかけさせることで前方にスペースを作り出し、攻め込んでやろうという作戦であった。実際、それっぽいシーンは数回作れた。
しかし、栃木のプレスは非常に速く、鋭い。トラップした瞬間に息つく間も与えずギュンと詰め、新潟のビルドアップを自由にさせなかった。
また、プレスの隙間からうまく前線にボールを送り込んでもなかなか次の展開を作れず。FWに何度もパスが繋がりかけるも、栃木のCBコンビが力強く体を寄せて前は向かせない。新潟は前線で起点を作ることに苦労。
また、この試合久々のスタメンとなったペドロ マンジーはフィジカル能力が高くないため、ファビオのように力強くキープしたり、DF裏のスペースへ駆け抜けたりは得意でない。よって新潟は攻撃で深さを取るのに苦心。
栃木のコンパクトなプレスに押し込まれる時間が長くなり、チャンスはセットプレーぐらいのものに。プラン通りとはいかない時間が続いた。
②攻撃のスタートは守備から
栃木はプレッシングで流れを掴み、ボールを奪った後もその勢いのまま押し込んでゆく。
栃木にはビルドアップという概念はない。正確に言えば、「ターゲットに向けて長いボールを蹴る」、これ即ちビルドアップ。この日のターゲットは矢野貴章。体の強さを活かし、次々に競ってはセカンドボールを味方が回収。オレンジブルーの頃と同じ、いやそれ以上の輝きを放っていく。
敵陣では主にサイドでボール保持。SB、CH、SH、FWがカルテットを組み数的優位を形成。明本、森、大﨑らのドリブル突破からクロス、SBのアーリークロスでゴール前に供給。ゴール前では逆SH、FWが必ず待機。シンプルな攻撃ながら効いていた。
「ピッチ中央付近で奪われる→サイドで数的優位を作られる→クロスを入れられる→ …」の無限ループに入ってしまった新潟。プレス網を突破できず、ボールの奪いどころも見つけられずにズルズル持ち込まれてしまい、まさに「攻撃が上手くいかなければ守備もハマらない」の典型に。
しかし、ファーストプランを0-0で折り返せたのは幸いであった。GK藤田を中心としたゴール前の踏ん張りでどうにかイーブンのまま次のターンへ。
③待ち望んだ展開の先を
56分、アルベルト監督は3人を同時にピッチに送り込む。大本、本間、シルビーニョ。明確な「攻め」のスイッチだ。
前半からボールを支配して、相手を走らせ疲れさせる意図を持って入り、後半はスピードを上げて相手を疲れさせ、決定的チャンスを多く作りたかった
--後半、ピッチの奥行きを使ったプレーができたのは狙いどおり?
作戦どおりと言えると思います。途中から入った選手の特徴は、奥やペナルティーエリアの角を取るのが得意な選手や、奥行きを持って(幅が)広がった中で仕掛けられる選手。相手の圧力を消しながら自分たちの良さを出すというのは、戦術的にハマったと思う。
最前線にスピードのあるシルビーニョを置き、DF裏を突かせて最終ラインを下げさせる。更に両サイドに仕掛けられる選手を投入し、両サイドを広く使う。こうして栃木のコンパクトな陣形の引き延ばしを狙う。これが2枚目の青写真だった。
開始直後から新潟最終ラインのビルドアップを追い回し続けた栃木の前線には疲労の色が見え、これまで以上に広くビルドアップする新潟に対してプレスの強度を保つことは難しくなっていた。
プラン通りに運んだ新潟。あとはゴール前に運び、ボールを枠に入れるだけ…だったが、ここは簡単にはいかなかった。サイドからコンビネーションを駆使してペナルティエリアまで侵入した場面はあれど、良い形でシュートを打つ場面は少な。この部分に関しては積み上げが欲しいところ。
今季はこうした展開を個の力の一発でこじ開ける試合もあったが、この日はそれもなく。水戸戦を一人でモノにした本間至恩は途中出場もこの日は印象が薄いまま。
終盤、新潟が押し込みながらも決定機でいえばむしろ栃木の方が多い展開に。栃木は選手のポジションを入れ替えつつ、高くなった新潟の最終ライン裏めがけて勢いよくカウンターを繰り出し、何度もゴールへ迫った。新潟は勢いを受け止めきれずピンチが嵩んだが、立ちはだかるはGK藤田和輝。素早く強気な飛び出し、冷静な判断でシャットアウト。藤田様様の試合に。
こうして真夏の消耗戦はスコアレスのまま終了。夏の3連戦最終日ながら選手たちはハイテンションに戦い続けたが、ゴール前でパワーを割ききれないまま終わった。
2.試合結果
栃木 0-0 新潟
得点者 栃木
得点者 新潟
詳細なデータはJリーグ公式サイト、Football Labへ。
3.まとめ
双方の監督がプラン通りという手ごたえを感じながら、結果はスコアレス。プランがどれほど良いものであっても、試合を決めるのは選手たち。プランだけで飯は食えないのだ。
- 今季初の無得点
再開直後から猛威を振るっていた新潟攻撃陣だが、守備の安定とともに1点を争う試合が増えてきた。そしてこの試合は初の無得点。これまでごまかされてきたゴール前のブロック崩しが改めて浮き彫りになっただけでなく、ファビオの欠場により前線のバリエーションのなさも露見した。
選手交代、陣形変更で展開を変えられる力があることは示してきたが、変更直後の混乱に乗じてゴールを奪えなければ相手も慣れてしまうもの。個の力に頼りすぎない、甲府戦の先制点のような複数人が絡む崩しの形を見たいし、やれるような気もするのだが、監督がそのあたりをどうしたいのかは分からない。
- 藤田和輝
この男には触れねばならない。セーブ数は堂々の7回。度重なる決定機を集中力高く防ぎ続けた。1か月前、念願のビッグスワンデビューが地獄となり果てた男に、ここまで安心感を覚えることになるとは…
明治安田生命J2リーグ 第9節
セーブ数ランキング‼️見事1⃣位に輝いたのは…#藤田和輝 (@albsaikou41) 選手(新潟) 7回‼️
数々のグッドセーブで勝点1の獲得に貢献しました✨@albirex_pr #Jリーグ #Jleague #footballlab pic.twitter.com/mowKMnCYXB— Football LAB (@football_lab) August 4, 2020
セーブだけでなく、ビルドアップでも大きく貢献。CBとのパス交換で後方でのビルドアップをサポートしつつ、ハーフウェーライン付近の味方へのミドルパスも正確で、栃木の強烈プレス回避に一役買っていた。こうして相手の最前線のプレスをすっ飛ばせるとチーム全体が楽になるので、とてもありがた~いプレーなのだ。
小島がようやく全体練習に合流し、GKの争いは激化。しかし、絶望から這い上がりポジションを確保し続ける背番号41への監督の信頼は相当なもの。本人もやすやすと渡す気はないだろう。自信を更に深めたであろう彼のプレーから目が離せない。
勝ちきれないが負けもないここ最近。ファビオ不在で臨む魔の連戦の入り口こそ踏ん張りどころ。総力戦で勝ち点3を積み上げていきたい。