ポジションレスフットボールの行く末 |J2第22節 vsヴァンフォーレ甲府 2020レビュー

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再開後初戦でも対戦した両者。この時は新潟がまさかの5バックでスタート。甲府が対応しきれない内に先制するも逆転され、4バックに戻して逆転返しと激しい戦いの末ドロー決着となった。

翻って2度目の対戦となる今回、またしてもアルベルト監督は仕掛けた。今まで頑なに内側に絞らせていたSHを突然大外に張らせ、SBを内側に上がらせた。甲府相手に2度とも奇襲をかけるあたり、アルベルト監督には上杉の血が通っているのかもしれない。策を練りながら結局ドローになるあたりも血は争えないのか。

「川中島ダービー」に監督自ら意味を持たせようとしているのかどうかはわからないが、来年もこの対戦が(あるなら)楽しみだ。(結果は決まっているのかもしれないが…)

 

目次

1.マッチレビュー

メンバーはこちら。

新潟はスタメン5人変更。田上は10試合ぶり、大本は16試合ぶりの先発となった。甲府相手に入念に準備したのか、はたまた渡邉新太の負傷を考慮しての方針転換か。ともかく大きな変更であった。

対する甲府も7人変更。明治大学在学中の須貝がプロ初出場。中山、山田ら若手を起用しターンオーバーの様相。新潟市出身の中村は地元凱旋となった。

 

①「縛り」を外した新潟

互いに速攻よりも繋いで落ち着いて攻めることを狙うチーム同士、どちらがボールを握るか?どのように崩すか?がこの試合のテーマとなった。そんな中、新潟は「奇策」を仕掛ける。

今季ここまでの新潟は攻撃時にSHを内側に絞らせ、SBに外を上がらせるという形を頑なに続けていた。そしてサイドに人数は掛けず中央突破狙い、大外でSBが持った際にも早いタイミングでのアーリークロスばかり。「サイドを幅広く取らない、奥深くまで侵入しない」という縛りプレイのようですらあった。

しかしこの試合では、SHの大本&本間はサイドに張り、ボールを受ければ仕掛けやクロス。その分空きができる内側のスペースにはSBの田上や荻原が入り込み、するすると上がってパスを受ける。いつもと逆の役割を担ったのだ。

 

なぜ急にサイドの高い位置を使ったか?その答えは甲府の守備ブロックの中にスペースを作り出し、堅守を攻略するためだ。

甲府は守備時に前からのプレスと撤退ブロックを使い分け。どちらにも共通するのはコンパクトさ。プレスをかける際にはDFラインもめいっぱい上げ、ブロックで構える際にもズルズル下がらないようにラインコントロール。これにより相手にブロックの中でスペースを与えず、5戦連続無失点も実現している。

 

新潟としてはブロックの中に侵入できないと崩しようがない。ということでまずはSHを高い位置に置き、DFラインを広げながら下げさせる。するとDF-MF間にスペースが生まれる。ここに入り込んだOH高木、両SBがパスを受けることでブロックの中を使おうとしていた。

甲府は陣形を整える意識は強い反面、選手間のスペースにいる相手選手への監視は甘く、高木を中心にこのスペースをうまく活用していた。また右SB田上はさらに前進してDFラインの背後を狙う動きも見せ、捉えどころのないプレーで甲府を困らせていた。

 

しかし流動性が高い反面、皆が皆動きすぎてゴール前に人が少ない場面も多く、FW鄭大世が孤立しているようにも感じられた。スペースを作ってゴール付近まで持ち込めても、シュートへの道筋は作り切れず。また、初めての形だからか味方を探してプレーに迷うような場面もあり、ミスも所々に。大きな変更故の難しさに直面していた。

 

②甲府的ポジションレスフットボール

奇策を仕掛ける新潟に対し、甲府はいつものフットボール。とはいえ甲府は過密日程の中でモデルチェンジの真っ最中。モデルチェンジの詳細については甲府サポーターのC3さんの記事がわかりやすいので是非。この試合では新戦術の浸透が感じられた。

 

甲府はボールを奪った際、無理に早く攻めずに5-4-1→3-4-3に変形して繋ぐ。この時のポイントは二つ。サイドのローテーション流動的なFW

まずはサイドのローテーション。甲府はビルドアップの際にCBの3人からサイド、中央へパスを通すことで前進していく。この時、サイドでSB、CH、SHのトライアングルを形成し、役割をローテーションしながらボールを呼び込み、サイドに起点を作っていた。コンパクトな陣形を保つ新潟に対してサイドチェンジも多用し、そこからチャンスを作る場面も。

続いて流動的なFW。最前列のラファエルは前線に留まらずにサイドに流れたり中盤まで下りたりと起点になるプレーが多かった。こうして新潟のブロックの中でCHとともにタテパスを引き出すことで前進していった。新潟のDF-MF間にタテパスを通し、横パスを挟んでDFラインの背後を突くといった形からゴールへと迫った。

新潟としてはFWからのプレスが淡白で、甲府DFにプレッシャーをかけてパスコースを限定することができなかった。そのためタテパスを何度も許し、奪いどころを定めきれずという状況だった。しかしMF陣の戻りやCB、GKの踏ん張りもあって決定機は簡単には作らせず。前半はスコアレスで折り返し。

 

③徐々にシンプルになる両者

互いにゴールに迫りきれなかった両者。ハーフタイムを挟んで手を加えてきた。

 

まずは甲府。太田に変えてドゥドゥを投入。狙いは新潟SB裏。前半から両SBが上がることで前傾姿勢になっており、連続出場で疲労の溜まるCBコンビの負担が多めとなっていた。

そこでドゥドゥがSB裏のスペースに走り込みカウンター気味に仕掛けるように。特に左SB荻原の背後の背後を何度も狙い、後半開始直後から大チャンス。新潟はゴール寸前で凌いだが、甲府は選手交代も交えさらにスピード感を持った攻撃を強化。

 

一方の新潟。後半から鄭大世→ファビオの交代。これにより前からプレスがかかりやすくなり、甲府の繋ぎを阻害できるように。ボールを奪う位置も高くなった。

これにより甲府は繋ぎにくくなり、尚更ドゥドゥらを活かした速い攻めに重きを置くように。新潟がボールを握る時間が長くなっていく。

 

そんな中生まれた先制点。荻原-本間-高木の連携でDF-MF間を使うことでサイドの荻原がフリーに。高速クロスがオウンゴールを呼び込んだ。

このままペースに持ち込みたかった新潟だったが、直後にビルドアップのミスをかっさらわれ甲府が同点に。足の止まっていた新潟の選手に対し、甲府の選手たちはボールを失った直後から奪い返すべく動き続けていた。

 

その後、新潟が選手交代で前掛かりになったことでオープンな展開に。前半のじっくり繋ぐ展開とは異なるパワープレーvsカウンターのような構図になるも2点目は生まれず。この対戦はまたしても引き分けとなった。

 

 

2.試合結果

新潟 1-1 甲府

得点者 新潟 63′ オウンゴール
得点者 甲府 
65′ ドゥドゥ

詳細なデータはJリーグ公式サイトFootball Labへ。

 

 

3.雑感

両者ともに流動的に陣形が変化する面白い一戦となった。選手のタスクが従来のポジションの持つ役割と異なるポジションレスな戦いぶりは現代サッカーのトレンドを感じさせた。

しかし、両者ともに自らが動くことで相手を動かし、ボールを前に運ぶことはできていたものの、フィニッシュ局面でそれが活かせていたかというと…? なんだかんだ脅威を与えていたのはカウンターやパワープレーなどのシンプルなアタックだった気もする。

どのようにしてシュートを打ちやすい、決めやすい状況を作るか。そのあたりがさらに上を目指すための改善ポイントとなりそうだ。

 

  • 求められる「3人目の動き」

中央を崩して得点を奪う形を作るために。求められるものの一つとして「3人目の動き」が挙げられる。

パスの出し手を1人目、受け手を2人目としたときにもう一人、3人目の選手が先読みして動き出しておく。守備陣はボール周辺を注目しがちになるため、2人目にパスが渡る前に動き出している攻撃陣は捕まえづらい。そのズレを見逃さずに素早くパスを繋げることで、DFの多い中央も攻略しやすくなる。

今シーズンの新潟はこの「3人目の動き」による連動した動きから突破する場面が少ないように感じる。皆が皆2人目になろうとしてしまい、スペースを食いつぶしてしまうような感覚だ。3人目を活かすためには、狙うスペースを選手間で共有することが重要となる。

また、この日の甲府戦では甲府の守備ブロックの間にスペースがあったものの、SHが外に張りすぎたり、高木が下がりすぎてしまったりと中央に人が少なく、FWが孤立する場面も多かった。せっかく敵陣でボールを持っても、中央にボールを届ける手段がクロスしかなければ戦いが難しくなってしまう。

 

1点勝負が増えてきた今だからこそ、3ポイントの積み上げのためにもシュートまでの持って行き方、中央の崩し方を整備していきたい。

 

 

折り返し地点ながら残り2か月半。いつものアルビならここで中途半端に波に乗れずに勝ち点を落としていくところ。しかし、今年のアルビは違う(はず)。これまでの種まきと成長を活かし、実りの秋として勝ち点の収穫期に突入したい。

 

 

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