年季の差、手札の差|J2第20節 vs徳島ヴォルティス 2020レビュー

2020シーズン

 

 

「あーありがとうございますー ねっ 今恩返し弾をいただきましたけどもね」

「ありがとうございますー こんなん なんぼ食らっても悔しいですからねー」

久々に食らってしまった。しかもアイツに。

前回の恩返し弾は昨季23節町田戦のロメロのゴール。いや、もしかしたら記憶から消してしまって忘れているのかも…

大体「恩返し弾くらいがち」「プロ初ゴール食らいがち」というのは都市伝説的なモノで、見る側が意識しすぎるから印象に残るのだと思っとります。とりあえずウチは大槻周平に食らいがちというか食らいすぎなのでどうにかしてください。

 

1.マッチレビュー

メンバーはこちら。

新潟はスタメン一人変更。ファビオがメンバー外となり、鄭大世が3戦ぶりに先発。上位対戦でことごとく勝ち点を拾えていない中、そろそろ3が欲しいところ。

一方の徳島は3人変更。古巣対戦となる藤田が右SBに入ったが、前節負傷交代した河田はベンチスタート。4-2-3-1を3試合継続し、この勢いのまま昇格圏内へ突入したいところ。

 

①狙い通りと足りない一歩

スペイン人指揮官が率いるチーム同士の対戦となったこの試合。パスを繋いでの主体的な攻撃、即時奪回と似通った狙いを持つ両チームだが、ボール支配率、パス数で上回ったのは今期からスタイル構築に着手したホームチームとなった。

 

新潟はビルドアップ時にSHが中に絞ってSBが上がり、CHが時折下がって3バック化する形。前線中央に人数が多くなるため、SH、FWが狙いどころを共有し連動してボールを引き出せるかがカギとなる。この日の狙いは相手CHの背後

新潟が最終ラインでボールを持った際、徳島はゾーンディフェンス要素強めの4-4-2の布陣でセット。ボールの動きに合わせて前後左右に動き、ブロック内のスペースを消して簡単に使わせない。中央を締める分前線から無理に追うことはないため、新潟は最終ライン中心に安定してボール保持が可能に。

そしてCB、CHにSBが関わりながら前線へボール供給を狙う。この時、徳島の2CHに対し新潟は両SH+渡邉の3枚を周辺に配置。徳島CHを引きつけ、脇や背後に空いたスペースに顔を出した3人目が受けることで前進していた。徳島のCHはボールや相手の状況を見て積極的に動くため、前半は特に新潟が使いたいスペースを意図的に作り出し、ボールを供給することができていた。

また、この日新潟が頻繁に狙っていたのは”3オンライン”にスルーを組み合わせた形。パスに対してSH、FWが一直線に並び、手前の選手がスルーして奥の選手が受ける。相手の意表を突いて対応を遅れさせるだけでなく、手前の選手が相手を引き付けてスペースを作り出すこともできる。

(3オンラインについての詳細はこちらから→ナポリが駆使するユニット戦術 ”3オンライン”と”サイ” とは?|サッカー戦術分析 鳥の眼

 

このようにしてCH周辺のスペースを突いていった新潟。徳島としては新潟の最終ラインやSBからの配給をなかなか封じきれなかったが、DF陣とGKの集中した対応もあり決定機までは至らず。新潟が最終ラインを攻略しきれない時間が続いた。

 

②キーマン潰しvs弱点狙い撃ち

一方の徳島もボール保持の際には右SBのみ片上げする3バック変形で最終ラインから繋ぐ。しかし狙いたいエリアは新潟とは異なる。新潟の狙いは敵陣の中央でサイド奥深くまで入り込まないのに対し、徳島はSHやシャドーがペナルティエリア脇まで侵入してゴールへの道筋を作る。

そこでカギを握るのがCHの岩尾と小西。彼らが長短のパスをピッチに広く供給することでこれを成り立たせている。まさにキーマン。

これに対し新潟はキーマン潰しを敢行。主将であり大黒柱の岩尾に対しFW渡邉がマンマーク。岩尾がポジションを上げた際にもCHの福田が前に出て監視し、岩尾へは簡単にボールを渡さない。こうして4-2-3-1のような形になり、パスコースを消しながらボールホルダーに寄せていった。

 

主将を消されてしまったアウェイチームだが、徳島には小西がいる。ということで彼がポジションを低めにして最終ラインにも加わりつつ広く配給。岩尾にマークがいる分プレッシャーを受けずに済み、ライン間で待つ前線の選手へのタテパス、新潟SBの背後へのロングフィードで攻撃のスイッチ役となっていた。

また、マンマークされる岩尾が囮となって前線の選手がフリーで受ける場面も序盤から見られ、チームとして慌てずに対応できているように感じられた。

前進した先での徳島の狙いは大きく二つ。一つはサイド奥深くを取って仕掛け&マイナスクロス。

もう一つはサイドで一旦後ろに戻してからのアーリークロス。新潟はここ4戦連続でクロスから失点し、弱点となっている。右サイド奥深くに侵入すると見せかけフリーな右SB藤田に渡してアーリークロス。これに左SHの渡井がCBの背後から飛び出して合わせるシーンを30分、37分と連続して作り出した。

最前線が5枚並ぶようにして攻める徳島に対して新潟はチャンスを作られるが、こちらも集中力高く対応。互いに狙いを出しつつ最後は締める拮抗した内容で前半を終えた。

 

対応力の差

ハーフタイム後大きな変更の見えなかった新潟に対し、徳島は攻守に手を加える。これにより試合のペースはアウェイチームへ傾く。

 

修正① CBの「運ぶドリブル」

ビルドアップの際、相変わらず岩尾がマンマークされているため配給役は小西が主に務めたが、後半開始直後から3バック両脇がドリブルで持ち上がる場面が増加

新潟のプレスは基本的にパスコースを切ることが優先で、3バック両脇にプレッシャーは強く掛けない。今までは3バック相手に対して次のような形でボールを奪えていた。

大外、中へのパスコースを消す
→外からSHが寄せて内側へ誘導
→ブロックの中にパスを出させてCHやSBが奪う

これまでの対戦相手にはドリブルで運んでくるCBがほぼいなかったため、新潟はこの形ではめ込めていた。

しかし、徳島には運べるCB田向&内田がいる。更には岩尾番に渡邉が駆り出されたことで、田向や内田が岩尾の横をドリブルで前進するのに対し誰が寄せるのかが曖昧に。一人が飛び出て寄せに行くと空いたコースを使われてしまった。

田向と内田は後半途中で交代したこともあり、CBがドリブルで運ぶ回数は次第に減少した。しかし、ドリブルという選択肢を提示したことは相手を混乱させるには十分な手だった。

 

修正② 外切りプレス

徳島のもう一つの修正はプレスの寄せ方。前半は新潟最終ライン3枚に対して2トップでアンカーを消しつつサイドを限定するような狙いで、無理に寄せることはしなかった。しかし、もう少し前で奪いたかったのかやり方を変更。奪いどころを中央に設定した。

  • FWが縦並びに
    →垣田がサイドを限定し、渡井がアンカー番に
  • SHが新潟CB→SBのパスコースを切りながら寄せる
    →中央に誘導する形に

こうしてサイドを簡単に使わせないようにしたことで徳島の陣形が揺さぶられる場面は減少、奪いどころが明確になった。

更に新潟の変更がこれに拍車をかける。新潟のFW渡邉は前半のように徳島CH周辺で受けるのではなく、DFの背後を狙う動きが増加。これにより徳島の2CHは新潟のSHへの対応に注力できるように。新潟がビルドアップで出しどころに困る状況が増えた。

 

新潟は59分にロメロを投入して推進力を強めるも、アンカー周辺に下がってサポートできる中島が居なくなったことでビルドアップの安定感は減退。強気のタテパスなども減り、ビルドアップでのミスから失点しかけるシーンも。徳島が圧力を高める一方で相手の変更に対応できず、ペースを失っていった。

 

上位対戦で勝ち点3の欲しい新潟は78分に矢村、高木を入れて中盤をひし形にし、より前に人数をかける形で勝負に出た。しかし陣形変更に伴い守備陣形も変わってしまい、最適なやり方を見つけるのに四苦八苦。サイドが空きやすくなり奥深くまで侵入を許してしまう。

こうしてクロスが増えた中で途中出場の河田が2本目のクロスを枠に沈めて勝負あり。後半の変更で優位に立った徳島が勝ち点3を持ち帰った。

 

 

2.試合結果

新潟 0-1 徳島

得点者 新潟
得点者 徳島 90′ 河田 篤秀

詳細なデータはJリーグ公式サイトFootball Labへ。

 

 

3.雑感

今季初の連敗。負けたのは結果論とも言えるが、前半に作れていた自分たちの時間、狙いの表現が後半にはできなくなっていったのは事実。ペースを失っていく中で生まれてしまう隙を見逃してくれないのが上位チームということだろう。

徳島は「いつものように綺麗にサッカーをすることはあまりできなかった( 8 岩尾 憲)」ながらも、新潟の出方を見て徐々にやり方を変え、ペースを奪い返した。このあたりの対応力、上手くいかない時に次の手札を持てているか、が新潟との大きな差だったように感じた。アルベルト体制1年目の新潟はまず一つの基本形を構築しつつあるところであるのに対し、4年目の徳島は応用を効かせていた。積み上げの差とも言えるのかもしれない。

 

  • 攻撃のカタチ

試合後の鄭大世のコメントが気になる内容だった。

--今日の攻撃の狙いは?

攻撃は自由にしていいと言われているので、1トップの長所を生かして、シンプルにクロスを入れる攻撃の形を意識していました。

--決定機を多く作れなかったが?

最後の精度のところが足りないと思った。(略)押し込んでいても、最後のところで決定機があまりない。それ以外の試合でも散見されている。最後のクロスや、ショートカウンター、カウンターのミスもチラホラ目立ったかなと思います。

--チャンスの直後に失点しているが?

決定力がないというより、決定的な場面を作るところまでいけていないのが問題。(略)

― 49 鄭 大世―

今季の新潟は中央突破メイン。徳島のようにサイド奥深くを使うことはなく、サイドではペナルティエリアより手前からのアーリークロスが多い。

このような攻めに対して、相手は「ゴール前中央を固めれば何とかなる」と思うはず。そうすれば自然と得点の難易度は上がる。更に攻撃が自由、シンプルに、ということであればなおさら相手は防ぎやすくなる。

精度を求めるのは勿論大事だが、精度が上がらないなりにもシュートを打つ際の状況を変えることでもっと楽に点が取れるはず。直線的にゴールへ!だけでなく、ドリブルでの仕掛け、タメを作るなどテンポを変えてみる。相手を動かしてスペースを作り、使う。それを複数人で共有する。こうして最終ラインの陣形を崩してシュートを打てるシーンを作っていきたい。

 

 

3年間の積み上げを経た徳島との対戦を終え、結果が大事だ積み上げが大事だという話になってしまうのはまあ仕方ないと思う。だが、結果と積み上げのどちらを重視すべき?という話の結論はこの夏の補強を見れば明らか。結果も、積み上げも、だ。

 

積み上げの成果は見て取れるようになってきた。チームとしての狙いが外からでも掴めるようになってきた。しかしこれ以上結果を出せないとどんどん自分の首が締まってしまう。前半戦の最終節。ミッドウィークの愛媛戦は必勝の意気で臨みたい。

 

 

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